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制作ノート/空と海の・・・Vol.2


ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの「インスマウスの影」についてもう少し書いてみたい。主人公のわたしは、ある日、母の里かたの出身地であるアーカイムへ行ってみようと計画するが、途中、普通の地図には載っていないインスマウスの町があることを知って、その町へ立寄ることとなる。町はなかば朽ち果てていて誰も寄りつかず、半漁人の神を祀る原始宗教が根づいていた・・・と始まって、最後には水中生活をしている祖母と海底で出合う夢を見たことにより、主人公であるわたしは暗黒の深海を潜り抜け、巨大な石を積みあげた太い柱の立ち並ぶキ・ハ・ンスレイの魔神がいる世界に棲み着こうと決心する。そのころにはもう、主人公の顔は魚のような顔をしていた。

ザッとこんなふうに記すと、なんだかゾクゾクとしてきそうなお話しだが、物語としてはたえずもやもやとして怪しげなだけであり、絵に描いたような半漁人が具体的に現れるわけでもなければ、さほど怪奇でもない。が、ラヴクラフトはゴシック・ロマンスの伝統をひいて独創的であり、怪奇小説の最高峰であるといわれている。しかし、超自然的な作品の売れる高級な市場がアメリカにはなかったがゆえにアウトサイダーであったともいわれているが、前にも少し述べたように、風景の描写力に独特なものがあって、この「インスマウスの影」を一口にいってしまえば、なんでもない風景の距離感や角度をラヴクラフトの視覚距離によって再定位された文学だと思う。

そのことによって、悲喜劇こもごもとした活力ある日常という劇場がみるみると変容し、ラヴクラフトがやり過ごしてゆく風景を追従体験することによって、彼の背負った荷の重さを字間や行間の海溝で分かちあうこととなる。そこには恐怖という実感があるわけでもなく、禍々しい距離と角度に対する生温かなイメージが“わたし”の側に湧いてくるだけなのだ。

例えば、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/デットマンズ・チェスト』のデイヴィ・ジョーンズと彼の眷族におけるクトゥルフ神話的な約束の哀しみ。あるいは、『スリラー』におけるマイケル・ジャクソンの爪先立ちや「白」さへの憧れ、そして崩壊。さらには、画家エドワード・ゴーリーのちょっぴり外したおぞましさ、等・・・「インスマウスの影」を読むにつけ、デイヴィ・ジョーンズやマイケル・ジャクソン、不幸な子供のシャーロット・ソフィアが背負い込んだ定位置にうっすらと伸びつづけている青白い影に潜んだ血の匂いを、わたしはうろんな客として嗅ぎつけ、そして驚く。


P.S.;こんど描く絵は「地上で行われた空と海との婚姻(仮題)」を考えている。白鳥王子と魚鱗姫の結婚式だが、マイケル・ジャクソンのスムーズ・クリミナルから受けたカッコいいイメージをなぞってみたい。



| 日々是好日 | 16:44 | comments(0) | trackbacks(1) | pookmark |
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ラヴクラフトの世界
ラヴクラフトの世界
| 忍者大好きいななさむ書房 | 2009/08/21 11:35 AM |