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浅い情事


女は女のことを知っている。
 
僕はこの女を疑っていたのかも知れない。女のからだは冷たくなんかなくって、死のような接触もなかった。ただ、僕が勝手にそう望んでいただけのことで、滑らかにのけぞったり、弾力性のある無理な格好をしたとき、その姿をぞんぶんに楽しめばよかったのに、エジプト人である神殿派神官の蒼黝くてぬらりとした逞しい男が僕の下で弓なりになっているこの女を横取りして、可愛い子羊のような生け贄を獰猛な腹や腰で押し潰し、傷をつけてしまうのじゃないだろうか、とか。女はそれを待ち望んでいるのではないだろうか、とか。自分にはピラミッドのような巨大な化け物にはなれそうもなくて、女にほんとうの歓びを与えらないつまらない男なんだ、とか。どうでもいいようなことをあれこれと考えていたんだ。ところが女は僕のことを心から愛してくれていて、疑いもなく満たされて泣いたんだ………僕の前であんなにも素敵な格好をしてくれたのに、淫らにしなった「トーネット椅子の曲木」だなんて、心のどこかでこの女とエジプト男との情交をさげすんでいたんだ。ほんとうのことを言ってしまえば、つまりは嫉妬をしていたんだ。なんてつまらない男なのだろうか。この女に命を狙われているというだけで捻くれていたんだ。もともと僕は、砂と埃しかない聖地エルサレムで通信騎士のコマンダーとして戦っていただけだから、はじめっからこの命以外はどうってことなかったのに。しかし、この女は大変だったろう。なにもかもが揃った贅沢な暮らしのなかで、エジプト人のおもちゃにされて生きていたのだから。
 
そうだな、おれはいつだって自分のことしか考えていなくって、ために女のことを親身になって考えてあげなかった。だからいつだって、おれとこの女との愛は気のぬけたシャンパンのような浅いマヌケた情事しかできやしなかったのだ。(女は女のことを知っているのだ)

「そんなことないわよ、すごく感じちゃった! とてもよかった」とささやいて、あの美しい氷河色の眸をうっとりとこちらへ見せながら、メムリンクは微笑んだ。


*ルーマニア国物語『トランスシルヴァナイト』(きみの乳ぼくの血)のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる方は、フロント・ページ左にある “CATEGORIES” の列の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。



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