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遠い日のHなエジプト


オルゴールを抱えたまま枕元の近くへそっと座ってから、寝台の傍に置いてあるリネンチェストの上へオルゴールを乗せた。そのとき、つっかかっていたシリンダーが回転でもしたか、爪で振動板が撥ねて、咳でもしたかのようにビィ〜ンと一音だけ低い音を残した。
「抱いて」と、振動板の震えに合わせるかのように、落ちついた声でメムリンクが誘った。じらせるつもりはなかったが、オルゴールを置いたときにサンダルウッドを含んだ精油蝋燭があったのでそれに火を灯した。
僕は洋服を着たままで、水鳥の羽毛でぷっくらと膨らんだ羽根布団をさらに剥ぎ取って、足元からすべり込んだ。が、上半身の衣類はすぐ脱がされてしまった。
「寒くないかい?」と、訊ねると、
「いいえ」と言った。
細いなだらかな腰へ手をのばし、さらにその指をすすめ、腿の間へ入れていつくしみ、閉ざされていた両脚をわずかにひろげた。その手を太腿から薔薇色の世界へせり上げて、何もせず、柔らかな下腹部の巻毛に触れて、腹を一、二度しごいた。しばらくして親指の腹を臍のあたりから鳩尾へかけて滑らせながら、華奢な脇腹を残りの指先で同時に撫でながら、ときに背中へと回した。いくぶん荒くなった息づかいとともに吐き出すメムリンクの咽喉の奥から、懐かしい海の匂いがする。顔を近づけ、柔らかい唇がたがいに触れ合って、舌がもつれ合う………と同時に、乳房を乱暴に盗んでいっそう激しく弄んだ。咽喉が膨れあがって、
「ああ! いい、わッ」と言った。
メムリンクは白い布に包まれていて、まるで花嫁みたいに奇麗だった。
「奇麗!」と、僕は声をかけた。
眼をふせたまま首を振って、メムリンクは僕の両脇下から素早く手をさし入れたかと思うと、その腕をくの字に曲げながら首の付け根あたりにある僧帽筋を力いっぱい握りしめて、泣きだした。

ふせていた眼を開け、首を振りながら頬を濡らし、僕の胸を濡らしながら泣いている。
「抱いて。ねェ、抱いて」と言った。
僕の欲情は痛いほどかき立てられて、この蒼白い肌を薄桃の肌に変えて食べてやろうと思った刹那、メムリンクの肉体は冷たくて、それは死との接触に近いほどであった。が、メムリンクの欲望は不思議なほどに燃えていた。

彼女はいまだ涙を流しながら、自身の股を大きくひろげて、まだ洋服のままであった僕の下半身を包み込んだ。しかし、僕のことには関係なくその肢体は少しずつ激しさを増してゆき、呻き声さえ出してせり上がった。あまり目立たなかった後頭部がだんだん伸びて長くなっていく。この時ふいに、メムリンク自身の口から何度となく告白をされた王妃ネフェルティティのことや、「トーネット椅子の曲木」のことを想出してしまった。おそらくは今、彼女は神殿派神官の末裔であるポティファルという男に犯されているのだろう。わけも解らずにただそう思い込んでしまうと、この城の地下室で見たあの光景をはっきりと想出さずにはおれなかった。

メムリンクはなおも淫らな格好となって、水鳥が濡れた翼を細かく震わせてでもいるかのように身震いをしながら、なんどとなく喘いでいる。

見ているのがだんだん辛くなり、僕は起きあがってリネンチェストの上に置いてあったオルゴールを手に取り、寝台のふちへ座ったまま蝶の形のハンドルを捻り、ゼンマイをきつく絞っておいてからそれを解放してあげた。


*ルーマニア国物語『トランスシルヴァナイト』(きみの乳ぼくの血)のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる方は、フロント・ページ左にある “CATEGORIES” の列の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 00:12 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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