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眠りと仮死と誕生日


しんしんと、雪はたえず降っている。
今年の雪は、ずいぶん遅く降りだした。と、馭者のカヌートが言っていた。僕たちがこの城へやっていた日、カルパチア山脈とトランシルヴァニア・アルプスの継ぎ目あたりの山々が、低く四輪馬車の窓から見えだしたころ、ちらちらと降りはじめたのだった。それがいつのまにか、あたり一面に幕でもひいたように、木々の緑もいつしか真っ白に覆われてしまった。

カヌートはこの数日間、働きづめに働いていた。エリザベート伯母様のお誕生日会が催されたからである。

伯母様のお誕生日会は十二月十七日であったが、遠くはハンガリアから、そしてモルダヴィアからお祝いにやってくる客もあった。そうした客はわずかであったが、どのかたもみな伯母様の大切なお友達、粗相があってはならないので、外のことはすべてカヌートが責任をもって指揮していた。
 
それら以外の客は近隣に住んでいる地主貴族らがほとんどで、遊山顔でやってきてはその日のうちに帰っていったが、遠くからやってきた客にまぎれて、何日も泊まっていくものもあった。客のめんどうは内にいる使用人の手でほとんどまかなえたが、こういった場合、歳老いた執事が手をめぐらすので、下働きする人間はすぐに集まった。しかし、冬の季節、外の仕事はきつかった。どの馬車も、車輪は橇仕様に装着仕直してあったが、車輪のままでやってきた横着なのもいて、これらの馬車を橇仕様に交換して上げたり、馬の世話や馬具の手入れ、薪を割ったり運んだりと、言うに言われぬ労働が山のようにあった。だが、これとて、カヌートは数人のツガニーを巧みに操つりながら、なんなくこなしていたが、四日目の朝ともなると、さすがに疲労している様子であった。
預った馬の世話や、外の労働はやってみなければわからなかった。
 
城の中では、大きなテーブルの上に鰯と玉葱のオイル漬けや肉料理、ソーセージ、ファグラ、ママリガ、野菜、果物、ス−プ、フルーツやクルミ入りのパン、チーズ、ワイン、珈琲、ジュース、ウイスキー、お菓子・・・と、ありとあらゆるものがところ狭しと並んでいた。だが、宴もそろそろ終わりに近づいていた。
 
僕もメムリンクも肉体的にはさほど疲れていなかったが、二人の心は苦しみにあえいでいた。ところが、エリザベート伯母様は黒い大きなリボンをゆらゆらと揺らして、夢遊病者のように歩いたり座ったりしながら、ときに〈アンダンティーノ〉と〈ラルゴ〉のあいだを行ったり来たりしながらチェンバロを弾きつづけていた。

「バートリ・エリザベート様、二百五〇歳のお誕生日おめでとうございます」

思いだしたように、だれかが大声で挨拶をした。
すると伯母様はチェンバロをジャランと力強くかき鳴らし、〈ヴィヴアーチェ〉で挨拶をした。
どこからともなく、「わ〜ッ!」と拍手が起こった。

「バートリ・エリザベート様、二百五〇歳のお誕生日おめでとうございます。いつまでもお元気でいて頂戴!」

また大声で、だれかが挨拶をした。(つづく)


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