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極楽の風


根津で『夜想庵』というBarをやっていた古い友人のK君が亡くなった。ガンのため、一年ぐらい病棟生活をしていたが、最後は聖路加病院で息をひきとった。霊名ラウレンチオ、無念なことだ。

彼はスナフキンのような男だったが、四十代半ばを過ぎたころから根津へ足を留め、以来、酒という魔法の水を調合しつづけていた。やさしい目をした男だった。

先日、家族の方から「なにかいただいてやって下さい」と電話があったので、いまは主のいなくなった部屋を訪ねた。洋服でもと思ったが、彼の身体は大きかったし、趣味も違っていたので着もしないものをいただいては失礼と思い、帯状の布が一本あったのでそれをいただいた。マケドニア様式の腰帯だろう。美しい織色だったのでマフラーにでもして、故人の彼を偲びたかった。それから、なによりも酒を愛した男だったのでそのことへ敬意を表したく、部屋にずらりと並んだ酒ビンのなかから『タンカレー』のジンをいただいた。「ほかには?」と尋ねられ、これ以上は辞退しようと思ったが、可愛らしいブタちゃんに巻きつけた太い凧糸があったので、その凧糸と、そばに置いてあった可愛らしい蜘蛛の玩具が目に止まったのでそれら二つをいただいた。蜘蛛の“おばさん”は小判型の木箱に入っていて、フタを開くたびに六本の脚がふるふると動く。ふしぎなことに、小さくとも動くものには力があって、K君のことをとても身じかに感じさせてくれた。

近くの寺々から吹いてくる秋風が、虫の声を運んで角部屋の窓から窓を通りすぎてゆく。

帰り際、大きな氷で充分に冷やされた『フォアロゼ』のバーボンをいただいた。
黄昏どき、窓際の近くで飲んでいると、晩夏の風が爽やかに流れて、それは極楽から吹いてくる風(極楽の風を知らないが、そんな気がした)のようであった。いつとはなし、スルスルっと『フォアロゼ』が咽喉に流れて美味しかった。不作法を見破られたか? 姉だという人からもう一杯すすめられた。行儀悪いと思ったが、ぼくは極楽の風に誘われるがまま、香りのいいバーボンを丁寧にいただいた。そして、しばらくして、失礼をした。

ひょっとすると、あのときの偶然の風は、彼からの便りであったろうか・・・そう思うと、ぼくの身体を吹きぬけていった彼の部屋の風の感触、あれもりっぱな形見の変形と言わざるをえない。K、君の冥福を祈る・・・


| 日々是好日 | 12:53 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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