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橋姫は白い猫

 新目白通りから西新宿にある淀橋方面へとつづく神田川沿に遊歩道があって、途中に神田上水公園があり、その公園の中ほどに亀齢橋(きれいばし)という橋があって、橋のあたりにはいつも白い猫がいた。ぼくはこの遊歩道を散歩するのを日課としているが、真夜中が多い、しかし、夏などは陽が長いので水辺が恋しくなって夕方ごろになるとふらふらと散歩によく出かけることがあった。そんなある日、その猫が突然歩いていたぼくの足元にやってきて、尾を立てながら脚の間を8の字を書きながらついてきた。この辺りには他の場所をふくめて5〜6匹の猫がいて、どの猫も気難しく皆めんどうな猫たちばかりなので自然あまりかかわらないようにしていた。だから、ぼくにとってこのあたりの猫は基本的にみな透明なものであったはずだったが、どうしたことか、そのような風になってしまった。こうなると可愛いもので、その猫を見つけるのが一つの楽しみになってしまったが、ぼくはルールとして、喉や頭、背中や腹を一掻きか二掻きする程度にしていた。ところが、大らかな猫でどこまでもついてきた。未練が残ってしまうときなどがあって、ときにこの牝猫の傍で水を眺めながら本を読むことがあった。すると、猫は猫の形を忘れさせるほど地べたに寝ころんで腹を見せたり丸くなったりしながらゴロゴロとしているが、寝ころぶと想像以上のおデブちゃんで、鏡餅のようになってしまうのがとても可笑しい猫だった。そんなときなど、半ページぐらいしかまだ本を読んでいうちにノラの猫は無防備にもぼくの膝の上へのそのそ這い上がってきて、いつまでもジッとしながらすっかり落着いてしまうチャームなヤツだった。
 そんな公園へと架かった亀齢橋のあたりまでぼくがやってくると、近くにいるときは飛び出してきて、腰を高く持ちあげながらピョンピョンと後足を跳ねながらやってくる印象がとてもつよく、ぼくはこの猫に「うさこ」という名をつけたが、どうも照れるので「うさ」とか「うー」決めていた。しかし、できるだけ声には出さなかった。ところがこの猫は、今年の晩秋ごろからいなくなってしまった。いなくなると寂しいもので、つまらない悪戯の犠牲者にでもなっていなければいいがと、そのことばかりをただただ案じていた。
 だが、昨日の深夜、いつものように散歩をしていると亀齢橋の近くに1枚のビラが風に吹かれてパタパタしいるのが眼に飛び込んでしまった。見ると、あの猫についての情報が書いてあった。おそるおそる手にとって眺めて見ると、「いまは里親の家でのんびり暮らしています」という文章が真っ先に読めたのでホッとしてからやおら全文を読んでみた。

 …この付近にいた(ブー)は、新宿区の野良猫ボランティアの方々の努力のおかげで、いまは里親の家でのんびり暮らしています。皆様にも可愛がっていただき、本当にありがとうございました。
 追記、現在の様子を裏面に載せてあります。

 と、書いてあった。
 なんだかあいまいな調子で別離してしまった女性が、いまは他の男と一緒になって幸福に暮らしている姿をなにかの拍子に見たか聞いたかしたときのようなものを一瞬感じてしまった。裏側には絨緞の上でくつろぐウーが、あの夏の日のほろ苦い思い出をふたたび思いださせるかのように白い腹を見せてじゃれて、あれこれくつろいでいる写真が二枚載っていた。
 亀齢橋にいたぼくの奇麗な橋姫ウーは、いつのまにかもう手の届かないところでブーという猫になってしまっている。
 彼女が誰かに愛されていて幸せならば、ぼくはそれでもういいんだ。と、真暗闇につつまれた早春の神田上水公園で一人やせ我慢をしてみせた。
| 日々是好日 | 02:18 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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