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トランスシルヴァナイト、旅の予定図


*淡いピンクのラインが国際列車「パンノニア号」の鉄道。
*淡いブルーのラインが道路。

               * * *


物語の表題である『トランスシルヴァナイト』は、別名『きみの乳とぼくの血』である。「きみの乳」とは母の乳であり、姉の乳であり、妹の乳であり、恋人の乳であり、女の乳であり、マリアの乳だ。また、「ぼくの血」とは僕自身の血であり、父の血であり、兄の血であり、弟の血であり、だれもの血であり、キリストの血である。

このように書くと、ぼくはキリスト教の信仰者のようであるが、無神論者だ。ただ、幼かったころより祖母からいろいろなことを教わった。祖母は産婆術を心得ていて、祖母の母、つまり曽祖母は藤堂藩御殿医の鞄持ち(いまでいうアシスタントのようなものか…)をしていたそうだ。そんな親子関係からかどうかは解らぬが、祖母も命あずかる者の身として、非常に信仰心の深い仏教徒であった。ときに簡単な呪術も使えたので、巷では重宝がられていた。

そんな祖母の部屋の押入れにはゴム管や医療器具があちこちに置いてあって、子供心にそれは恐ろし道具類であり、大きくなるにつれて祖母との距離をだんだん取るようになってしまった。だが、仲が良かったころは、『高田派勤行和讃』『回向文』『花和讃』『秋葉讚』『賽の河原地蔵和讃』『石童丸(苅萱同心和讃)』『白骨の文(無常和讃)』など、あるいは『安寿姫と厨子王丸』など、優しい口調でなんどでも読んで聞かせてくれた。それがこうじてかどうかは自身でも解らないが、ぼくにはぼくなりの“愛”の形が一様はあって、“希望”もあり、“祈り”もある。それらはどれも自己流なのでいくぶん歪んではいるが、それほど恥ずかしいものではない。

『きみの乳とぼくの血』は別段の意味もなくこじつけに近いが、「血」とは命であり、愛であろう………そして、「乳」は希望であり、祈りであろう………などと、無理に分けてみたところで、「血」と「乳」の特性はなんら変わることがない。乳滴は白い血であると聞くからだ。赤い血と白い血………。赤い「血」を“愛”と呼んで、白い「乳」をなんとなく“祈り”と呼んだまでのことである。

     

そもそも、この物語は新宿駅南口近くに貼ってあったルイ・ヴィトンの巨大ポスター「カトリーヌ・ドヌーブとめぐるパリの旅(撮影=アニー・リボヴィッツ)」からはじまった空想旅行である、だからどこへ飛んで行ってもよかったが、写真に撮られている女優カトリーヌ・ドヌーブの横で、白い煙りを吐きながら出発をいまかいまかと待っている怪物のような、古くて格好のいい蒸気機関車を眺めているうちに、しらずもがな、吸血鬼ドラキュラの故郷トランスシルヴァニアへと向かっていた。後先のことはなにも考えず、まさに身一つで、写真に写っていた紙のプラットホームから紙の蒸気機関車に跳び乗って、得体の知れない女とともに“過去永劫”にわたって自分捜しをする物語がはじまったのである。
 
文中、父の父の………とか、母の母の………という問いかけは、存在の環への問いかけである。たとえどのような時空へ迷い込んだとしても、誰と出会ったとしても、すべては自分自身の存在への繋がりとしてとらえた事柄であって、唯一体温のある他者がそこにいたとすれば、やはり、それは旅のパートナーとしての女ヌヌ(本名メムリンク・ヴラッドミルチャ)であろう。女ヌヌはたえず現実的な行動半径の中に立居振舞っていて、リアルな存在意識の共犯者となり、別離ても再会し、“僕”という人物とおなじ時間軸にたえずいてくれる頼もしい人物なのだ。

そんな二人が、やがては蝶のような地形を持った伝説の国、トランスシルヴァナイト王国へと関わってゆく………。
二人の愛は、そして、祈りは、ともに孵化して叶えられるのであろうか………。

               * * *


私であるギー(モンゴル系マジャール人で本名はギー・バートリコルヴィヌス・ゴロー)はフォガラシに棲んでいる伯母バートリ・エリザベート(通称=血の伯爵夫人)を訪ねて旅をする。ロンドンで偶然に見知ったフランス人の女ヌヌ(異名ではあるがジュヌヴィエーヌを縮めてヌヌと言う。本名はメムリンク・ヴラッドミルチャ)はブラショフの南西部にあるブラン城に棲む叔父(通称=ドラキュラ侯爵、あるいは眠る死騎士)を訪ね旅をする。

散文詩『トランスシルヴァナイト』は、危うい歴史の光景の影で一時的であっても成立したであろう蝶の形をした馬蹄形王国(トランスシルヴァナイト王国、現ルーマニアの楚となった国)の三国統一物語だ。

おおまかな歴史の秩序は守るつもりでいるが、時空は一千年にもおよぶため、この長編散文詩はほとんどが妄想(潜在譚)であることをあらかじめお断りする。

トランシルヴァニアとはTransの語が示すとおり「超える」とか「向こう」の意があり、超常現象にも結びつく。末尾のsylvanitはシルヴァナイト鉱(この石は1835年にトランシルヴァニアで先ず最初に発見されたためこの名がついた)を意味する。故に『トランスシルヴァナイト』とは トランシルヴァニア国の古語であると独断で解釈し、この物語の標題とした。


| 東欧奇譚/未完 | 00:39 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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