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ある女たらしの死

                      1977 CBS Records inc.

 今日はレナード・コーエンの『ある女たらしの死』について少し書いてみたいと思う。
 『…女たらしの死』とは随分と大胆なタイトルだが、このアルバムは、ぼくがフリーのイラストレーターになったばかりのころによく聴いていたアルバムだ。西武百貨店のファッション広告を専門にやっていたシュガーポットというデザイン事務所にいたころ、すでに、このユダヤ系カナダ人の詩人でありミュージシャンであるレナード・コーエンの曲と出会っていて、すっかりフアンになっていた。どこかしら憂鬱ではあるが、ポエトリー・リーディング風の言葉を投げ出してしまったけだるさに男ぽっい華があって、ルー・リードとは一風違った頽廃感に魅力を感じていた。
 ぼくの記憶では、『レナード・コーエンの唄』のつぎに買ったLPだったと思う。いまでこそレナード・コーエンのアルバムはCDでほとんど全部持っているが、ある時かなりのLPを手放したことがある。その時に、『ある女たらしの死』のレコードも消滅してしまった。以来、どの音楽もCDで聴いているので、なくした『ある女たらしの死』のCDを今まで気長に捜しつづけていたが、それが昨日、ようやく見つかったのだ。ネットなどで購入できたであろうが、このアルバムだけは偶然の出会いの中で手に入れてみたい代物だったからである。

 昨日はすいどーばた美術学院の50周年記念祝賀会がホテルメトロポリタンであり、昼間からビールやワインを飲んだ。その後、創形美術学校の卒業生が下北沢で展覧会をやっていたのでY氏と一緒に伺ってから古道具屋やショップを覗き、二人でまた一杯やった。下北沢の駅でY氏と別れてからは、新宿へでて、一人ふらふらとディスクユニオンへ立ち寄った。そうしたら、売り場の棚のLのコーナーに永年さがし求めていた『ある女たらしの死』のCDが一枚、ぽろんと置いてあった。日本語版であれば御の字だったが、残念ながら輸入版であったが、即、迷わずに購入した。この時の気分は、まるで『ナルニア国物語』にでてくる台詞「思ってもみない時に行ける」の心境であった。

 家へ帰って“針”を落とした瞬間、一曲目の「真実の愛」が流れた途端に過去への日々へひきづり込まれてしまった。可愛いベルの音がチンと小さく最初に鳴って、レナード・コーエンと女性コーラスが螺旋をえがきながら思いっきりズレてゆく歌声とともに、ぼくの首の後ろにある急所を中心としながら、全身に鳥肌の波紋が広がっていった。永い間ずっと忘れていたものを思い出したような、なにかしらホッとする瞬間である。つぎの曲、「ヨードチンキ」もバック・コーラスが思いっきりズレている。しかし、いい曲だ。三曲目の「紙のように薄い壁のホテル」は、彼が棲んでいたチェルシー・ホテルのことだろうか? それとも、いやおうなく露出してしまう彼の心情だろうか。四曲目の「回想」は、まるでカンツォーネの「太陽は燃えているか」風の出だしではじまる陽気な曲だが、アンディ・ウォーホルのロック・バンド『ヴェルヴェット・アンダーグランド』のヴォーカリストだったニコという女性との一夜を「見せてくれないか、見せてくれないか、君の裸を」と歌っている。五曲目の「ぼくは女を待たせた」は可愛い曲だ。六曲目の「興奮したまま家に帰るな」はモータウン・スタイルのホーン・セクションと手拍子ではじまるが、女なしでは暮らせないコーエン自身が自分の戒めのために歌った曲だろうか? どこか茶化している。七曲目の「指紋」はフィドルやスティール・ギターやピアノが陽気にはしゃぐ活発な曲だ。最後の曲は、タイトル・ソングになっている「ある女たらしの死」だが、これは女たらしの成れの果を歌ったような破滅的な歌であろうか。彼の真骨頂ともいえる鬱病の美学がなんとも中途半端で、安っぽい鬱病にかかってしまったようなとろい歌い方をしていて残念だ。しかし、裏を返せば、このリアルな疲労感がコーエンのある一面だとすれば、彼の日常がボロッと出ていて実に興味深い一曲だ。
 このアルバムは、売上も評価もいま一つだったという噂がある。なるほど、ハイテンションと落込みの格差が激しすぎて、少々うわずったアルバムかもしれない。だが、ぼくにとってはコーエンのアルバムの中ではもっとも印象に残るアルバムだ。そして、バック・コーラスと思いっきりズレにズレてゆくアルバムではないだろうか。そういう意味において、「真実の愛」や「ヨードチンキ」のズレは最高にイカしている。
 コーエンのことをなにも知らなかったころ、ジャケット写真に映っている両脇の女性たちがバック・コーラスのヴォーカリストだと思っていたが、向かって右の女性があの有名なスザンヌだろう。卵形のうりざね顔に三白眼が妙に猫的だ。ギリシャのイドラ島で一緒に暮らしていたマリアンヌという女性が彼の二枚目のアルバム『ひとり部屋に歌う』の裏表紙に載っているが、この女性も猫族の風貌をたたえている。しかし、スザンヌには品と優雅な冷たさが感じられる分だけ、いったんはじまってしまえば、セックスにはただならぬ情熱がありそうな眼差しをしている。
 恋多き詩人でミュージシャンのレナード・コーエンは、永遠の女性を探し求めながら今もその巡礼をどこかでくり返しているであろうが、このスザンヌという女性にはあらゆる意味において始終メロメロであったろう。彼の無垢で幸せそうなまっすぐな視線を見ていると、スザンヌの官能的で攻撃的な美しさが増していいる分、たぶん、扱いにくい女性であったろうな。と、そう思わずにはいられない。
 その扱いづらさと、ドラッグに溺れながらも女性なしでは生きていけない彼の苦悩がこのアルバムにはよくでていると思う。
 機会があれば、このアルバムを聴いてほしい。彼の歓びや苦悩が交差していて、ズレにズレてゆく寂しさがある。そんなズレの隙間に谺するハウリングのやるせなさが、彼の音楽全般における魅力なのであろう。

 レナード・コーエンはどのアルバムも大好きだが、『LEONARD COHEN/ZURICH 1993』のライブ・アルバムの中に収められている「I`m your man」は酸いも甘いも知りながら、枯れてなお不良の大人がそこにいる凄みがある。十枚目のアルバム『I`m your man/ロマンシェード』の「I`m your man」も勿論いいが、チューリッヒのライブは、それを凌駕して遥かにいい。
| 音楽 | 15:12 | comments(4) | trackbacks(0) | pookmark |
コメント
お便りありがとうございます。
コーエンって、やっぱり人気者なのですね。
『ある女たらしの死』をガッチリ受け止めてくれている人がいて嬉しいです。
つつららさんやshigeyuiさんは詳しいですね。ぼくは輸入版を購入しちゃった(うっかりして、ソニーのシリーズ版を買いそこねた)ので詳細があまりよく分りません。歌詞カードが無いのがちょっちさびしいです。
「興奮したまま家に帰るな」では、ボブ・デランとアレン・ギンズバーグがバック・コーラスに参加したという噂がありますが、歌詞カードにでも書いてあるのかな。。。。つつららさん、ご存知でしたら、またコメント下さい。
| み組 | 2007/09/20 9:57 AM |
いつも拝見させていただいてます。
私も大好きなアルバムです。
大半の作曲はフィル・スペクターでフィル・スペクターが勝手に編曲プロジュースしたみたいでコーエンは数年間認めてなかったアルバムなんだとか?しかし、ゲストもジャケットも何もかも好きなアルバムです!

| つつらら | 2007/09/19 10:07 PM |
お便りありがとうございます。
seedsbookさんの方からお客様がいらして大変に嬉しいです。
shigeyuiさんはコーエンがお好きなようですね。ぼくは今回、コーエンのことを長々と書いてしまいましたが、どれも主観的なことばかりで根拠はありません。ですが、こんな風に聴いている奴がいるんだという程度に読んでいただければ幸いです。なんだか、こうして一つのことを互いに話し合えるのは素敵ですよね。
shigeyuiさんは海の近くにお住まいのようですよね。。。。うらやましいな〜。ぼくも時々、そんなshigeyuiさんの“海”を拝見させていただきますので、これから宜しくお願いします。
seedsbookさんに宜しく。ありがとうございました。
| migumi | 2007/09/18 11:16 PM |
はじめまして。
seedsbookさんのブログでこちらのブログを知りました。それ以来、よく覗かせて頂いています。
レナード・コーエンの「ある女たらしの死」は、初めて聞いたとき「何だこれ?」と思ったのを覚えています。フィル・スペクターのアレンジがレナード・コーエンの声に余りにも合っていなくて、驚いたのでした。それ以来、殆ど聞いたことのないアルバムでしたが、なるほど、そういう聞き方もあるのですね。久々にCDをかけてみましたが、確かにちょっと面白いかもしれませんね。
『LEONARD COHEN/ZURICH 1993』は、僕もたまたま持っていますが、これは良いライブアルバムですね。中古で買った記憶がありますが、海賊版なんでしょうか?フルサイズに近いだけに、生々しさがよいですね。
| shigeyuki | 2007/09/18 10:37 PM |
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