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甲 殻
甲 殻(こうかく) 
       シテ/耳彦 ワキ/騎士なにがし 所/青山墓地



地   夕暮れ時の 青山と呼ばれし界隈に 美しき絃の音は流れたる
    骨董通りのはずれ道 丘の上の石の影から聞こえたり
    ありゃ『玉虫昆虫館』と云う店の 丁稚の若者が弾くギタルラの音
    丁稚が奏でるギタルラは ポルトガル産の孤愁さうだあーじ
    今日もだんなさまに頼まれて 奇蝶奇蝉を捕獲に来たが
    父の形見のギタルラだけは こうしてひとときも離さずに
    つかのまの夕暮れを だれへ伝えることもなく ただつま弾いて

囃子  シャンシャラ シャラララン シャン シャララン

ワキ  「貴様! 玉虫昆虫館に住まう耳彦であろう。

シテ  「はい、おおせの通り。私は猫目耳彦と申しますが、そちらさまはど
    なたさまで……

ワキ  「われはヤンゴトナキ御方につかえる騎士でごじゃる。そなたのいる
    昆虫館には、
    たいそう大きな平家蟹がアルコール浸けになって沈んでおじゃるであ
    ろうの。

シテ  「は、はいッ。おおせの通りにございます。

ワキ  「それをいますぐ、持ってまいれ。ヤンゴトナキ御方は今宵待ってお
    られるのじゃ。
    ただちに、いますぐ、ここへ、持ってまいれ。ささ、はよう持ってま
    いれ。

地   有無を云わさぬ騎士が言葉に耳彦は 丘をかけおり ひき返えす
    丘をかけおり ひき返えす ささ ささと おりたる丘を ささ登り
    たる 
    手には平家の蟹をたずさえて『騎士様これに』と 献上する
    青山の 丘の上ゆく影法師 かさなりあったり もつれたり
    どこまで辿るか二人組 地獄極楽 はて はてな さても今宵はどの
    あたり
    影ぼっつりと消えうせる
    なもあみおだぶつ なまあんだ…… ぎゃていぎゃてい なまあんだ

シテ  「越えゆけども、越えゆけども黒い山。
    ないてひぐらし、とんでひぐらしひとり旅。 
    ふとふりむけばこはいかに、街にはあらずや芒ケ原。
    街にはあらずや芒ケ原の、井戸の、奥の、地下水道。
    そのまたむこうよ、こは海の底。

地   騎士に曳かれし若者は 甲殻泡を飛ばすのひとり旅
    騎士にもたれて弾く曲は 甲殻泡を飛ばすのひとり唄
    影は同胞を曳きつれて いまや甲殻へと乗りうつる
    恨みをのんで乗りうつる 我が同胞の妄執は
    ここでこうしてはらそうぞ 無念無常の響きあれ
    娑羅双樹の花の色 無念無常の響きあれ


囃子  ジャンジャラ ジャラララン ジャン ジャララン

シテ  「歯も抜けそうな海の旅。海行かば水浮くかばね、なまあんだ。
    山行かば草むすかばね。なもあみおだぶつ、なまあんだ。

囃子  シャンシャラ シャラララン シャン シャララン

ワキ  「平家の蟹がひぐらしとぶらう水の底。
    なんで恐るる事やある。などてたゆたう事やある。

地   ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい
    かなかなかなかな ひゅーるる るるんっぱ

囃子  ジャンジャラ ジャラララン ジャン ジャララン
    シャンシャラ シャラララン シャン シャララン

                幕
| 能楽詩集 | 01:26 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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