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「永仁五月三日の刀」赤江 瀑
Facebook/Book Cover Challengeより

読書文化の普及に貢献するために好きな本を1日1冊、7日間投稿するチャレンジ ・リレー!六回目です


『野ざらし百鬼行』より、短編「永仁五月三日の刀」
著者  赤江 瀑
出版社 文藝春秋
装画  坂東壮一
A・D  坂田政則


赤江 瀑氏の本は、あれもこれもいいという具合いでそれなりに読んだつもりだが、なかで好きなのは何かと問われれば、長編『海峡』は図抜けて良かった。それでも『野ざらし百鬼行』に収録されている「永仁五年三月の刀」だと真っ先に応えたい。永仁とは鎌倉時代後期の元号、五年三月とは刀の茎(なかご)に刻まれてある日付銘で、反対側には来国俊(らいくにとし)と銘打ってある。一世の名工・来国俊の作であるが、別名「螢丸」と呼ばれている。「螢丸」には伝説があって、楠木・新田勢に破れた足利尊氏が筑前(現在の福岡県宗像市)に逃れたとき、打って出た肥後の菊池勢に参戦した阿蘇大宮司惟国の子、惟澄(これずみ)が戦場に帯びた名刀とのこと、けれども負戦となって、ほうほうの体で菊池館へもどった惟澄はボロボロになった刀に神徳を誓い倒れ伏したとき、こぼれ欠けた刃の破片が一つ一つ元の場所へ還り飛んできて修復されたとのこと。その様子が、無数の蛍が飛んできたかのように見えたところから「蛍丸」と名付けられたと言う。しかし刀は終戦直後、進駐軍の何者かに持ち去られて未だ行方不明だとか。物語はそんな幻の刀が織りなす夢のような現で、史実というか、伝説の刀匣へ現実の刹那がすっぽりと入れ子になっている奇妙な野ざらし鬼行だと思った。

ここまでが伝説で、本筋である現実話は、安ホテルへ泊まった男の部屋にフロントから電話があって、休憩に利用した先の客が忘れていった品物(永仁五年三月の刀)を取りに伺いたいが在るだろうか・・・と言ってはじまっていく。取りにきたのは奇妙な女で、上品な物腰ではあるが、どこかしら濡れたように淫蕩な女だった。男は風呂敷に包んであった刀をこの女に渡したあと、あわあわと群れだつような光のなかで、一瞬にして性的な関係に引きずりこまれてゆく。たったそれだけの話だが、まるで螢が疲れはてている男をなめつくすようで面白かった。

赤江氏は下関長府の生まれで、氏の世界には平家滅亡の修羅が匂う。逆さクラゲ(温泉マーク)のネオン管がジイジイと唸っている安ホテルの部屋に「永仁五年三月の刀」を受けとりにやってきた女とは・・・、どこかしら平家の女人のようであって、刀は海の深みでじっと眠ったままでいる草薙剣のようでならなかった。永仁の刀を口実にして、現世の男と情を結んだ女はなにをもくろんでいたのだろうか。また、なにの恨みを浄火したかったのであろうか。






| 文学 | 17:04 | comments(0) | - | pookmark |
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