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藤原北家贋縁起物語 Vol.032

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」Vol.015

「よかったわ、お祝いね。ドンペリ一本ある?」
と言ってうれしそうに赤白まだらの吹流しの尾ビレをひらひらとさせた。
「ドンペリなんてあるわけないだろう。ペリエならあるからそれにしてくんない」
「水のシャンパンね、いいわよ」
と言っておいてから、透明なガラス鉢へ近づくと腹をぴったし押しつけておいてから、そのまま宙返った。
金魚は新しい水を欲しがっているようであった。しかし、ペリエは冗談のつもりであったから心配でならなかった。だが、言われるまま発泡性の天然水を金魚鉢へドボドボとそそいでしまった。ところが、金魚は口をぱくぱくさせながら妙にごきげんであった。ワニ皮の男は「うそっぱちなこの時代、もうなんでもありなんだなぁ!」とひとりごちながら封の切ってないワインを手とってコルクの栓を景気よく「ぽん」とひき抜いた。そのとき、「兄さん、なぜわたしを見つめてばかりなの?」と金魚が小声でつぶやいた。しかし、声はコルク栓を抜いたときの音によってかき消されてしまっていた。
「なぜ見つめるって………オレのおふくろは海女だったから………白い尾ビレや腹ビレが水の中でひらひらしていると………わかるだろ、懐かしいのさ」
と言った。
「海女とワニ皮の息子」
クッと笑っておいてから、金魚は「見て!」といって、またも宙返った。
「で、お母様は今どうなさっていらっしゃるの」
と、ゆらゆらよろけながら泡をプクッと吹いて男へ尋ねた。
「おれが三歳のとき、海で死んだ………海女が海で死ぬなんて、滑稽だろう」
「ううん、少しもおかしかないよ」
「へぇー、この話しをして笑わなかったのはキミだけだぜ。どうしたんだい、涙なんか流してさ」
「バッカみたい。水の中で涙が見えるわけないでしょ、発泡性天然水のガスの塊じゃない」
「アハッ、それもそうか」
とワニ皮の男は笑った。
金魚はこれまでの流れに水をさして、「怖い」と言っておいてから、
「その〈おひざの岩〉をはやく潜らせてほしいの、ね、そしてイヨマンテの儀式を!」
と言った。
〈おひざの岩〉とは五色川にある紡錘形の中洲のことであったが、金魚がなぜそんなことを知っていたのかワニ皮の男は気がかりでなかった。すこし酔ったか? と、そんなことはどうでもよくなっていた。
「おれ、目覚ましのためにひと泳ぎしてくるわ。もどったら本格的にイヨマンテの儀式をすませてあげるから」
と言って五色川へ飛びこんだ。
「夜が明けるわ! 兄さん、はやくして」
と言っておいてから、金魚はゆるやかな曲線を水の中で描きはじめ、やがては不意に! 蛇になったかとおもうと金魚鉢の口からするするっと這いだして、ワニ皮の男のあとを追いながら河原の暗闇へと細く長くのびていった。

ただし、目の色は金と黒いろのままであったが。(日刊、時々休刊「 妖精新聞・第二話 」ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」/終)






| 藤原北家贋物語/未完 | 16:34 | comments(0) | trackbacks(1) | pookmark |
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