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藤原北家贋縁起物語 Vol.031

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」Vol.014

男は口が大きいわりには噛んだ乾燥イチジクが引きちぎれなくってもぞもぞしていると、金魚が言った。
「白、似合うわ。おめかしをしたらぐっとハンサムさんじゃない。だけどそのイチジク、いいかげんに飲みこんでしまいなさいよ。で、ね、そう、世界はまだ終っちゃいない。だからわたしを五色川へ流してほしいの」
「川はポレンの………、つまりセシウムの花粉でいっぱいなんだぜ」
「ラギットなハンサムさんが旅へでてしまえば手足のない金魚なんて腐った水のなかで見殺しにされたか、この川へ捨てられたわ。でしょ」
「まあ、そうだったかも」
「ほらね、図星だわ。でもべつに構やしない。ただ、あなたと暮らしているうち、わたつみのいろこの宮に棲んでいたおばあ様にいいつけられたことを想出しちゃった。それは〈好きになった人がいたら足は洗えないし、もう戻れないよ〉ってことを」
「じゃ、キミはどうなるのさ」
「ひどいなぁ、そのために川へ流してほしいとさっきから頼んでいるんじゃない」
「ふたりがまた出逢うため、にか? このことは想出をずんずんと形成してゆく仮定法過去であって、単純な過去の想出なんかじゃなさそうだね。キミという金魚はどっかの学者さんたちが言ってた〈金魚鉢のなかの金魚〉なんかじゃ全然ないんだ」
「まあね。水中深くいたときには何ごともなかったけれど、水面へでたとたん、人にはなれなくって金魚さんになっちゃった」
「なんでもなかったおれがザムザ人間になったぐらいだから、チンケなこんな時代、キミだって金魚ぐらいなるだろうに」
「金魚のまま、あなたに忘れられ捨てられるのはいや」


   ぶうらん ぶうらん ゆりかごゆれて
   こんやわたしと ねるのはだあれ
   ゆらゆら ゆうらり おふねのせんちょう
   おぎょうぎかしこくせにゃならぬ
   とけいが 六つをうったなら
   ちりれるらいんと おわかれだから
   よもすがら 白いまわたでつつみましょう

   (やぁ〜、やぁ〜、ほれほれ)

   あそびをせんとや うまれけむ 
   たわむれせんとや うまれけん
   あそぶこどものこえきけば 
   わが身さえこそ ゆるがるれ
   ぶうらん ぶうらん ゆりかごゆれて


「聖なるものにいくぶん近い青の色のビニールシートが張られてある室内で、わたしを少しでも可愛がってくれていたのであったなら、あなたの手でもういちどシースプライトへかえしていただきたいの」
「目の玉の研究はしていたぜ。だけど、もちろん可愛がっていたさ」
「だったらあなたが見た夢の儀式!? イヨマンテのようなサクリファイスの儀式でもって、わたしをこの川へ流してほしいの。それがだめなら金魚鉢のなかの蝋人形でかまやしないわ」
「おいおい、意味がまったくわかんないけど、そんなことできるかな?」
「できるわ。熊祭のような儀式をあなたは父親の力をかりながらも自身の力でサクリファイスして、こんなにラギッドなワニさんになったんだもの」
「おれが見た夢の儀式!?って、赤毛と野いばらの枝のことだろうか?」
そう言ってからワニ皮の男がまたワインを飲もうとしたら、金魚は人工知能をもったコンピューターのHALのような声をだして、「怖い」と言った。声があまりにも真剣で悲痛だったので、男は飲みかけたワインのグラスを赤いギンガムチェックの“テーブル・クロス”の上へもどして置いてから、しばらくして、
「キミの気がすむのであれば、言うとおりにするよ」
と言ってから、がぶっとワインを飲んだ。(日刊、時々休刊「 妖精新聞・第二話 」好評連載中/つづく)






| 藤原北家贋物語/未完 | 14:44 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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