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イリアス・オデュッセイア/エレクトラとオレステス



幼かったころ、祖母がよく読んで聞かせてくれた「安寿と厨子王丸」の地、舞鶴(丹後)へ父の都合で引越す話がもちあがった。けれども古い家に固執した祖母によって反対をされた。わたしにとって、以来、舞鶴は心のなかの故郷となり、その後、なんどとなくその地をたずねたことがある。はじめて見た雄大な由良川や雪をかぶった由良ヶ岳、舞鶴港にあった赤レンガの倉庫群、青灰色の軍艦などどれもがわたしの住んでいる地ですでに見たことのあるようなものばかりだった。いいところだなと思慕した。

こうして今エレクトラやオレステスのこと、あるいはジャン・コクトーの『恐るべき子供たち』のことを考えていると、その思慕が幻がリアルなものとなり、古代ギリシャも平安末期もクソッたれなものになってゆく。




・・・・森鴎外の『山椒大夫』より抜粋
「姉は今年十五になり、弟は十三になっているが、女は早くおとなびて、その上物に憑かれたように、聡く賢(さか)しくなっているので、厨子王は姉のことばにそむくことができぬのである」






| 紙芝居屋のオデュッセウス | 10:20 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
イリアス・オデュッセイア/花骸の名はカッサンドラ



トロイア戦争の勝利から凱旋した総大将アガメムノン大王は、強妻の前では戦利品のひとつと化してしまった愛妾カッサンドラについて「心やさしく王宮に迎えるように」と、かろうじて言い放った。妻の王妃は上機嫌を装い、その夜、情夫とともに入浴中の王へ投網をかぶせ、頭上から斧を振りさげて惨殺する。その後、この地にて殺害されることをとうの昔に自ら予見したカッサンドラは、獣が屠られるがごとくなすすべもなく殺された。

ミケーネの野に黒鳥ははばたき、いつしか冬の陽は落ちて雪が降る。やがてその丘の小道を一台の馬車が通りすぎ、八つ裂きにされた一輪の花骸(はながら)が野辺の下草のあいだへ落ちて妖しげにうずくまってゆく。傷つきし赤き複眼のしたたりはひとつひとつが種子となって、まだこぬ春を永遠に待ちわびる。

散りし花の名を、アポロンに愛されたカッサンドラという。




・・・僕のイリアス・オデュッセイア詩画より、絵 は「雪酸漿」 2016)






| 紙芝居屋のオデュッセウス | 10:19 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
イリアス・オデュッセイア/雪崩


とある少年少女の一団が馬車にゆられながらカフカスの峠道をおりてきた。馬車はコルキスの港町からアルゴナウティカのような大きい船にのって、黒海を渡った。そしてヒッサリクの丘へとやってきたが、この大旅行は「小さな蛙ちゃん擁護院/ラナンキュラス」の夢にまでみた大遠足会であった。

その丘から見下ろすエーゲ海には里親となるべき天空王のゼウス、地中王のエリニュス、海底王のポセイドンがすでに出迎えていたが、それには遠慮なく、小さな蛙ちゃんたちは春もちかい丘の残雪のなかで雪合戦をいつまでも楽しんでいた。ただカッサンドラだけが古時計のように回転している熱い鉄輪をころがしながら、きたるべき友情の崩落を予言しつつケラケラ笑いで走りまわっていた。

このカッサンドラには予言の幻覚も幻聴もすべては現実のものとして雪崩落ちてきてはいたが、ガキ大将のアガメムノンもオデュッセウスもヘクトルも、アキレスも、彼らすべての少年少女にはまだ見ぬ夢幻でしかなかった。


(僕のイリアス・オデュッセイア詩画より、絵 は「雪崩」 2019)






| 紙芝居屋のオデュッセウス | 16:00 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
イリアス・オデュッセイア/オレステス…父らの帰還



 オレステス/父らの帰還

となりの国へ 戦にでかけた父の不在に
母は父とちがう 木偶ノ坊と過ごしてた
ぼくのお腹は いつも空いていたけれど
しかたなしにどこまでも 走りつづけた

もう城へはぜったいに帰らない 帰れない
だからこうして空をながめ 海をながめて
光る夢をたべながら いろんなこと考える
たけきものになるのだと 走りつづけた

海のみえる 丘の地べたへ座りこんで
アイスキュロスの『アガメムノン』を読む
神話は蜘蛛の巣にからめとられたような
ミュケーナイの恐ろしや 悲劇であった

吠えたてて ぼくは逢魔を走るであろう
すると父の船が遠い水平線へあらわれて
母に殺されるがため 父はその頬をそめ
光る海をおごそかに 走りつづけてた





・・・・・・・・僕のイリアス・オデュッセイア詩画 2019





| 紙芝居屋のオデュッセウス | 12:13 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ユリシーズの涙


見捨てられて・・・シラミだらけになって横たわっていたアルゴスは、ユリシーズが近くにいるのに気がつくと、尾を振り、両の耳を垂れたが、もう自分の主人に近づくだけの力はなかった。
   ロジェ・グルニエ「ユリシーズの涙」より みすず書房


グニエルのユリシス、この箇所だけで買った本でした。いまもずっと、これからもずっと通底していくことでしょう。






| 紙芝居屋のオデュッセウス | 10:05 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
王女カッサンドラ




  王女カッサンドラ

よく食べて よく歩いた
わたしの小犬 ちかづいてきて
こごえでうたう 異国のことば

海のうた 空のうた
どこまでも 澄みきって 
預言者のような 目のない小犬

イリオスの夜の雨にたたずみ
気狂いてゆく 王女カッサンドラ
ポイボスアポロン ポポイポン

口を真一文字につむんだまんま 
わたしはとっくに 死んでいて
わたしはとっくに 生きている

 (アポロン憎しや
    わたしを滅ぼす)

カッサンドラと 裸足の小犬
神話のなかでは 死んでいて
きたるべき街で 生きてゆく

風のうた 花のうた
どこまでも 澄みきって 
うた 歌え 王女と小犬



みなさんに愛された琥珀は、今年になってから肺水腫のため酸素ハウスでいっとき苦しみましたが、それも解放され、いま静かに眠っています。1月26日の朝わたしに抱っこされたまま、おしっことうんちをしたあと、おおきなノビの深呼吸をして永眠しました。立春がやってくれば16歳の誕生日でしたが、全盲というハンディーでよくがんばってくれました。“王女と小犬”の詩とともに、お知らせさせていただきます。ありがとうございました。佐藤

















| 紙芝居屋のオデュッセウス | 22:05 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
イリアス・オデュッセイア/魔都


もはやこの都市は魔都となり、魔都はやがて流産をする。ここにひとりの女がいて、女の名はクリュタイムネストラというミケネの王妃であった。王妃には父が異なる妹がいて、母は互いにレダであったが、妹の父親は白鳥と化してレダを犯したドン・ゼウス様であった。この妹こそが魔都をつくりだし、隣街のトロイア王国を全滅させた張本人であった。けれども、いまトロイアは巨万の富を誇って東の丘陵に陣を張る王国で、「月下一群一党組」と名乗っていた。

かの妹の名はヘレネという。亭主はスパルタ王メネラオスで、亭主が留守中にトロイアの王子に口説かれて駆落ちする。おどろいた亭主の泣きついたところがクリュタイムネストラの夫アガメムノンのところだった。ややこしいことにアガメムノンとメネラオスは兄弟で、兄のアガメムノンはミケネはもとより、魔都の西一帯を牛耳っている総長で、「太陽族」の大親分であった。ゆえにアガメムノンはこの機をにらみ、西一帯の組長をすべて呼びあつめ、財宝や利権獲得のための戦争をトロイアに仕掛けた。

オデュッセウスも例外にもれず出陣したが、十年戦争の末、「太陽族」はこの男のおかげでなんとか勝つことができた。しかしトロイアの男はもとより、西一帯の男たちもオデュッセウスただ一人を残し、やがてだれもが死んでいった。生き残ったトロイアの女たちはオデュッセウスを恨みつつ、流れ流れて「人魚館々亭」の樓郭にて未来永劫その男をまちぶせる。(僕のイリアス・オデュッセイア詩画 「ないない王とトロイアの女たち」より 2018)





| 紙芝居屋のオデュッセウス | 15:20 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
イリアス・オデュッセイア/般若王


無鉄砲なことをいえば、エーゲ海はひとつの都市である。

むろんそこに浮かんでいる島々はそれぞれの〈シマ〉であり、守るべき火場所であって、アスファルトの海に点在する島々には神殿もあれば城もあって、館や樓郭、映画館やサーカス一座の見世物小屋、鍛冶屋、考古学博物館、バラック、植物園などなんでもあった。寄り道するにはことかからなかったが、橋をわたったり船にのっていかなければならない〈シマ〉もあった。だが中心街の山道をのぼった一郭には立寄りがたいほどツンと澄ました高級住宅地があって、赤ら顔をした〈神々〉と呼ばれるわけのわからない連中が住んでいた。そんな時代のそんな街はずれにあるイタキという貧しい島に、その男は住んでいた。

ところがこの男のことを知らないものはいなかった。けむし男、のっぺらぼう、イオニア海の田舎者、愚者、ひねくれ者、ペテン師、知恵者、浮気者、さまざな悪名や異名で呼ばれていた。ともかくも、なんにでも対応できるマルチな男であった。人であれ神々であれ、その男の力を利用しようとする反面、恐れられてもいた。では、何者であろうか…。オデュッセウスという名の金看板を背中にしょった、とびっきり繊細で無欲透明な般若王であった。けれども般若だという本性をだれも知らない。(僕のイリアス・オデュッセイア詩画 「ないない王とトロイアの女たち」より 2018)



今年も大変お世話になりました。皆さま、どうぞ佳き新年をお迎え下さい。





| 紙芝居屋のオデュッセウス | 14:36 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ないない王とトロイアの女たち


ホメロスの『オデュッセイア』で遊んでいるうちにようやく自分なりの骨がみえてきました。ですので夏に書いた「凪渚のオデュッセウス」を書直しました。よかったらまた読んでください。

      *   *   *

その男はアルゴスという小犬をポケットにいれて今日も海辺へむかった。男は知恵があるぶんやることは非情で、悪名高き策略家という噂があった。むろんそういう男ではあったが、ギリシャの詩人ホメロスが書いた『オデュッセイア』の主人公であり、えげつない汚さや暗さはなかった。

そんなふうな男はイタキという小さな島の王で、島には西風がいつも吹いていた。だから西のことはなんでも知っていたし、東のことさえわかっていた。風は球体を循環していたから、東の国のうわさ話などはあとでゆっくりと聞けばよかった。西を先取りして、東を取戻し、中の中を取るというふしぎな男であった。

中の中取りには秘密があったが、男はその術をいまだ知るよしもなかった。

気がつくと、サンダルの紐がほどけていたので結ぼうとしたとき、ポケットから愛犬のアルゴスがころころっと転がりでてしまった。捕まえようと思えばおもうほど砂浜を転がって、とうとうどこかへ消えてしまった。すると風がやんで、海が凪いだ。しずかな刹那とすれちがった男はパッと一瞬だけ消えて、のっぺらぼうの「ないない王」になった。けれども、自分が多中心の中の中心にいることを知らないでいた。

はた目でみていても海はさっきからずっと荒れていたし、西風も朝から休むことなく吹いていた。東から吹いてくる風もピューピューとあとからついてきていたし、イタカキの島はいつもとかわりなくそこにあった。(僕のイリアス・オデュッセイア詩画 「ないない王とトロイアの女たち」より 2018)






| 紙芝居屋のオデュッセウス | 13:54 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
エレクトラとオレステス


タンバリン・ギャラリー(神宮前)にて12月11日(火)から始まる「タンバリン展」に参加します。105名のタンバリンが並びます。きっと楽しいと思います。

http://tambourin-gallery.com/tg/2018/12/tambourin-gallery-presents-fantastic-days-2018.html

ぼくはタンバリンを叩いて弟を呼寄せるエレクトラと、復讐の蠅に追われつづけるオレステスを描きました。ふたりの物語は、遠い日に読んだ安寿姫と厨子王丸を思い出します。よかったら見て下さい。






| 紙芝居屋のオデュッセウス | 21:23 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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