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藤原北家贋縁起物語 Vol.037_05

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「水と海水」第三話 Vol.05

  (わるいな。おれはおまえの兄でもなければ、
   「フヒト」っていう男もしらない)だなんて

  兄さん
  兄さんが三つのときだったわよね
  おぼえてて
  志度の浦の房前で
  母さんがみるみる溺れていった日のことを
  海女だったから 
  溺れるなんて
  畜生!
  あの男
  父さんが殺したんだわ


         2     〈青銅のトンネル〉

  瀬戸内の 
  志度の浦の海士村で
  母さんは「かみながさん」と呼ばれていた
  その美しき 長き黒髪をアオサギがくわえていって
  平城宮の裏手にあった
  水上池で大きな巣をつくった
  そのころ 不比等の邸は平城宮とならぶ東院の横にあったから
  水上池へまで徒歩で五分とかからなかった
  不比等はどういうわけか
  アオサギがたいそう好きであったから
  鷺を見たさに池へよく通っていた
  そんなある日
  不比等の頬をなぜるものがあった
  絹のごとくに艶のある
  身の丈 三倍もあろう黒髪であった
  これは幸運をもたらすものと
  不比等はこの髪の長い女性をもとめつつ
  津々浦々の
  裏の浦で
  雨が降っていた朝 
  ついに一丈六尺の黒髪が縁となり
  母と であった

              *(一丈六尺は約4.8m、立仏像の標準寸法)
       *

(日刊、時々休刊『妖精新聞 第三話』好評連載中!)つづく






| 藤原北家贋物語/未完 | 11:05 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.036_04


ワニ皮の男と金魚のポピンズ「水と海水」第三話 Vol.04

  知らないでしょう
  いいんだよ だって兄さんは
  おおきく育ってゆくりっぱな西瓜だったし
  ぴかぴかと輝いている西瓜を父さんが抱っこしたとき 
  わたしは父さんの靴で踏んづけられた
  痛かったろうって………ううん
  どちらかと言えば すごく苦しかった
  一匹の虫がもがいているように
  でも知らないよね
  そんことよりも
  お父さまのお話しをしましょう

  お父さま
  つまり ふぢはら不比等だが
  あのころのことはここからっていえるほど簡単じゃないけれど
  壬申の乱が終わったころからにいたしましょうか?

  兄さんも知ってのとおりだとおもうけれど
  あすか壬申の乱とは
  天智天皇亡き後の皇位継承紛争で
  弟の大海人皇子が
  兄の大友皇子に勝利した戦いだったわよね
  そして大海人皇子は天武天皇となった
  以後 お父さまは権力をふるったが
  ふぢはらは祖父 中臣鎌足が天武天皇の御代に
  その功績から出生地の「ふぢはら」の姓を賜って
  ものの土台をつくった
  しかし「ふぢはら」にはむろん同族も多かった
  そこでお祖父さまの鎌足は
  先々のことをおもい患うて 一計をくわだてる
  「ふぢはら」の姓は鎌足の子孫のみにて
  他のふぢはらは 依然 中臣のままであると………
  中臣はこれまでどおりに神事を司り
  「ふぢはら」は政治に仕える家柄となって大臣となる 
  このことによって 
  一族は宗教と政治 その両方を支配することとなり
  祖父さまやお父さまは一族の頭領となった

  そうだわよね 兄さん
  そして兄さんも
  いずれは頭領となって遠くへ行くの!

       *

(日刊、時々休刊『妖精新聞 第三話』好評連載中!)つづく






| 藤原北家贋物語/未完 | 13:09 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.035_03

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「水と海水」第三話 Vol.03

  ふふ 兄さんのしらないお話しをしてあげましょうか
  飛ぶ鳥のあすかふぢはらの宮
  そのお宮からひとりの男がここへやってきて
  だれのものでもなかった母さんが
  その男のものとなった
  七〇〇年ごろのことだろうか
  いや もうすこし前だったかもしれないが
  母さんのしろい腹の上で
  男は毎夜毎夜 
  けものじみた声をあげ
  母さんの内股に残っていた
  昼のあいだのなまあたたかき潮水を
  さも大事そうに ちびりちびりと嘗めまわしていた

  母も ああ! と叫ぶ

  そんな夜がいくたびもつづき
  とうとう母さんは身妊った
  男 涙をながしつつよろこんで
  ついにその男その正体をそこであらわにあらわして
  「われはふぢはらの鎌足が子、いな天智天皇の皇子………
   いないなやっぱりふぢはら鎌足が子の不比等とおもわるる?」と
  なんとも情けなき告白にて
  母さんは耳もたずして十月十日後
  くだものの実が熟れはじめるはつ夏のころに
  海辺へ建てたの産小屋にて男の子を生んだ
  兄さん
  西瓜のような赤子の兄さん
  蔓のさきの蔕(へた)に
  もひとつちいさな実があったのをご存知か?
  ねえ 兄さん
  ちいさな実があったのをご存知か?
       *

(日刊、時々休刊『妖精新聞 第三話』好評連載中!)つづく






| 藤原北家贋物語/未完 | 13:19 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.034_02

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「水と海水」第三話 Vol.02

  兄さん
  兄さんとは三つ違いだったわね
  そんな兄さんはいつも母に抱かれていたわ
  いいなぁ
  でも わたしは母を知らない
  だけど あとになって知ったのだけど
  母はこの海辺へどこからともなくやってきて
  なんなく海女の仕事をこなしながら
  海を自在に往復していたと聞く
  「えらいもんや」と 村の男たちは口々に騒ぎ
  母の小屋を覗きみるのをたのしみにしていたそうな
  だが 母はだれのものでもあったが
  だれのものにもならなかった

  そういう暮らしであったから
  母に自慢できるものはなにもなかった
  ただ 丈なす黒髪にめぐまれていたと聞く

       *

(日刊、時々休刊『妖精新聞 第三話』好評連載中!)つづく






| 藤原北家贋物語/未完 | 21:24 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.033_01

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「水と海水」第三話 Vol.01


         1     〈鱗ヶ姫の磯笛〉

  足元のここには死んだ母の家があった
  海に面した低い軒の屋根に石をのせた手づくりの
  粗末な家の小さな窓へ
  くりかえしくりかえしやってくる
  海の
  風の
  潮の
  においをのせたトビウオのやつ
  そんなふうな小屋の裏手には
  牡蠣殻をひとつつけた海女舟が
  ぽつんと朽ちはてて置いてあった
  暗い大きな口をあけた弓なりの 
  舟胴の下に離々と幾重にもひろがった
  蒼い雑草にまじりあって
  だれのものでもない
  白い野菊がぽつんと一輪咲いていた
  母はいつだって そのような女であって 
  だれのものでもけっしてなかった

  みずかきのようなゴムの手袋
  母は嫌ってそれをつけてはいなかった
  輝かしい しろいみずいろの肌をさらしつつ
  真裸でいつも海へでて
  「ピューピュー」と
  哀しい口笛を吹いていた
  海女の磯笛! 
  その振動を乳房の下の胞衣の密室で
  わたしはいつも聞き惚れていた
  そして産まれいずる日を待ち望みつつ
  真水とも海水ともつかない器官のなかにあって
  ひとり膝をかかえながら
  潮(うしお)うずまく繭の解かれるその日まで
  兄さん
  わたしはその日のくるのを待っていた

       *

(日刊、時々休刊『妖精新聞 第三話』好評連載中!)つづく






| 藤原北家贋物語/未完 | 11:41 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.032

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」Vol.015

「よかったわ、お祝いね。ドンペリ一本ある?」
と言ってうれしそうに赤白まだらの吹流しの尾ビレをひらひらとさせた。
「ドンペリなんてあるわけないだろう。ペリエならあるからそれにしてくんない」
「水のシャンパンね、いいわよ」
と言っておいてから、透明なガラス鉢へ近づくと腹をぴったし押しつけておいてから、そのまま宙返った。
金魚は新しい水を欲しがっているようであった。しかし、ペリエは冗談のつもりであったから心配でならなかった。だが、言われるまま発泡性の天然水を金魚鉢へドボドボとそそいでしまった。ところが、金魚は口をぱくぱくさせながら妙にごきげんであった。ワニ皮の男は「うそっぱちなこの時代、もうなんでもありなんだなぁ!」とひとりごちながら封の切ってないワインを手とってコルクの栓を景気よく「ぽん」とひき抜いた。そのとき、「兄さん、なぜわたしを見つめてばかりなの?」と金魚が小声でつぶやいた。しかし、声はコルク栓を抜いたときの音によってかき消されてしまっていた。
「なぜ見つめるって………オレのおふくろは海女だったから………白い尾ビレや腹ビレが水の中でひらひらしていると………わかるだろ、懐かしいのさ」
と言った。
「海女とワニ皮の息子」
クッと笑っておいてから、金魚は「見て!」といって、またも宙返った。
「で、お母様は今どうなさっていらっしゃるの」
と、ゆらゆらよろけながら泡をプクッと吹いて男へ尋ねた。
「おれが三歳のとき、海で死んだ………海女が海で死ぬなんて、滑稽だろう」
「ううん、少しもおかしかないよ」
「へぇー、この話しをして笑わなかったのはキミだけだぜ。どうしたんだい、涙なんか流してさ」
「バッカみたい。水の中で涙が見えるわけないでしょ、発泡性天然水のガスの塊じゃない」
「アハッ、それもそうか」
とワニ皮の男は笑った。
金魚はこれまでの流れに水をさして、「怖い」と言っておいてから、
「その〈おひざの岩〉をはやく潜らせてほしいの、ね、そしてイヨマンテの儀式を!」
と言った。
〈おひざの岩〉とは五色川にある紡錘形の中洲のことであったが、金魚がなぜそんなことを知っていたのかワニ皮の男は気がかりでなかった。すこし酔ったか? と、そんなことはどうでもよくなっていた。
「おれ、目覚ましのためにひと泳ぎしてくるわ。もどったら本格的にイヨマンテの儀式をすませてあげるから」
と言って五色川へ飛びこんだ。
「夜が明けるわ! 兄さん、はやくして」
と言っておいてから、金魚はゆるやかな曲線を水の中で描きはじめ、やがては不意に! 蛇になったかとおもうと金魚鉢の口からするするっと這いだして、ワニ皮の男のあとを追いながら河原の暗闇へと細く長くのびていった。

ただし、目の色は金と黒いろのままであったが。(日刊、時々休刊「 妖精新聞・第二話 」ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」/終)






| 藤原北家贋物語/未完 | 16:34 | comments(0) | trackbacks(1) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.031

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」Vol.014

男は口が大きいわりには噛んだ乾燥イチジクが引きちぎれなくってもぞもぞしていると、金魚が言った。
「白、似合うわ。おめかしをしたらぐっとハンサムさんじゃない。だけどそのイチジク、いいかげんに飲みこんでしまいなさいよ。で、ね、そう、世界はまだ終っちゃいない。だからわたしを五色川へ流してほしいの」
「川はポレンの………、つまりセシウムの花粉でいっぱいなんだぜ」
「ラギットなハンサムさんが旅へでてしまえば手足のない金魚なんて腐った水のなかで見殺しにされたか、この川へ捨てられたわ。でしょ」
「まあ、そうだったかも」
「ほらね、図星だわ。でもべつに構やしない。ただ、あなたと暮らしているうち、わたつみのいろこの宮に棲んでいたおばあ様にいいつけられたことを想出しちゃった。それは〈好きになった人がいたら足は洗えないし、もう戻れないよ〉ってことを」
「じゃ、キミはどうなるのさ」
「ひどいなぁ、そのために川へ流してほしいとさっきから頼んでいるんじゃない」
「ふたりがまた出逢うため、にか? このことは想出をずんずんと形成してゆく仮定法過去であって、単純な過去の想出なんかじゃなさそうだね。キミという金魚はどっかの学者さんたちが言ってた〈金魚鉢のなかの金魚〉なんかじゃ全然ないんだ」
「まあね。水中深くいたときには何ごともなかったけれど、水面へでたとたん、人にはなれなくって金魚さんになっちゃった」
「なんでもなかったおれがザムザ人間になったぐらいだから、チンケなこんな時代、キミだって金魚ぐらいなるだろうに」
「金魚のまま、あなたに忘れられ捨てられるのはいや」


   ぶうらん ぶうらん ゆりかごゆれて
   こんやわたしと ねるのはだあれ
   ゆらゆら ゆうらり おふねのせんちょう
   おぎょうぎかしこくせにゃならぬ
   とけいが 六つをうったなら
   ちりれるらいんと おわかれだから
   よもすがら 白いまわたでつつみましょう

   (やぁ〜、やぁ〜、ほれほれ)

   あそびをせんとや うまれけむ 
   たわむれせんとや うまれけん
   あそぶこどものこえきけば 
   わが身さえこそ ゆるがるれ
   ぶうらん ぶうらん ゆりかごゆれて


「聖なるものにいくぶん近い青の色のビニールシートが張られてある室内で、わたしを少しでも可愛がってくれていたのであったなら、あなたの手でもういちどシースプライトへかえしていただきたいの」
「目の玉の研究はしていたぜ。だけど、もちろん可愛がっていたさ」
「だったらあなたが見た夢の儀式!? イヨマンテのようなサクリファイスの儀式でもって、わたしをこの川へ流してほしいの。それがだめなら金魚鉢のなかの蝋人形でかまやしないわ」
「おいおい、意味がまったくわかんないけど、そんなことできるかな?」
「できるわ。熊祭のような儀式をあなたは父親の力をかりながらも自身の力でサクリファイスして、こんなにラギッドなワニさんになったんだもの」
「おれが見た夢の儀式!?って、赤毛と野いばらの枝のことだろうか?」
そう言ってからワニ皮の男がまたワインを飲もうとしたら、金魚は人工知能をもったコンピューターのHALのような声をだして、「怖い」と言った。声があまりにも真剣で悲痛だったので、男は飲みかけたワインのグラスを赤いギンガムチェックの“テーブル・クロス”の上へもどして置いてから、しばらくして、
「キミの気がすむのであれば、言うとおりにするよ」
と言ってから、がぶっとワインを飲んだ。(日刊、時々休刊「 妖精新聞・第二話 」好評連載中/つづく)






| 藤原北家贋物語/未完 | 14:44 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.030

ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」Vol.013  

なおも金魚はブクブクブッと泡を吹いておいてから、
「あなたはわたしの目の玉とガラス玉にばかり興味をしめしていて、もっと愛されたかった」
と、言った。
「黒い雨の涙がとつぜんに降ってきて余裕なんてなかったし、おまけにこんなふうになっちゃって」
と、ワニ皮の男はセシウムのウルシようなものに固められた鱗をじっと見つめていた。
「ねぇ! お食事、しない」
と金魚が言った。
「ああ、こんなものぐらいしか用意できなかったけれど」
と言ってイトミミズとアオウキクサ、麸をすこしずつわけて金魚鉢へ入れておいてから、じぶんはアルコールをすこし飲んだ。
「わたしもこんなはずじゃなかったわ。だからこれはあなたとの最後の晩餐!」
と、麸を飲みこんでおいてから金魚が言った。
「最後の晩餐!?」
「そうね、大きな目の玉の金魚鉢から見る外の世界は人々の疲れが眠っていて、それを見るのはもういや!」
「だから五色川のながれのなかへわたしを流してほしいの」
「なぜ」
「虹の七色になって、あなたとまた出逢うため。それにどうせ、あなたはこれから旅をするのでしょ」
「まあ、そうだけど」
「どのみちこの世界はどこにいたって不条理なのよ。でも、金魚の私を紙のしゃもじで掬ってくれて、あなたは夢の世界へわたしを連れだしてくれてお世話してくださった。私、あなたを愛しています………。それをずっと前から言いたかったの」
「じゃビニールの袋へきみをいれて、腰からさげて一緒に旅をしょうよ」
「無理ね」
「馬鹿をいうなよ………、どうして?」
「それじゃ一生かかってもわたしとあなたは金魚とワニさんのまんまだわ」
「待ってくれよ。なにを言ってるのかちんぷんかんぷんなんだけど、また出逢ってどうなるんだい?」
「あなたって変わっているわ。じゃ生きていてどうなるの? 黒い雨の涙がこんなに降っているときだから、あなたに出逢ったことに意味があって、感動もできるんだわ」
「おいおい、こんな鱗だらけのミドリ色した珍奇なケダモノなんだぜ」
「そこがいいのよ! このご後におよんでも、おおかたの人々はじぶんたちがザムザ人間になったことをあまり認めたくはないんだわ。〈ザムザな奴らはアレルギー過敏症でいやんなっちゃう〉だなんて、笑っちゃう。だってその人たちの瞳には黒い雨の涙が今日もはてしもなく本当は流れているのよ。にもかかわらず………」
と言っておいてから、金魚はイトミミズをズルッと飲みこんだ。(日刊、時々休刊「 妖精新聞・第二話 」好評連載中/つづく)






| 藤原北家贋物語/未完 | 10:42 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
お知らせ!

藤原北家贋縁起物語(ふじわらほっけにせえんぎものがたり)

3.11以降、HPやFBにて日刊、時々休刊発行しています噫無情型ウツ菌風土病病理研究学会機関紙『 妖精新聞』連載中の「ワニ皮の男と金魚のポピンズ/水と海水」はただいま休刊中でありますが、こんがらがった毛玉をほぐしながら、よりいっそう楽しんで戴けるよう努力しておりますのでいましばらくお待ち下さい。尚、この妄想譚にひとくくりの冠を今後はつけさせて戴きたく思っています。なんとほうけた『藤原北家贋縁起物語(ふじわらほっけにせえんぎものがたり)』です。なるかならぬかお笑い下されば幸いです。






| 藤原北家贋物語/未完 | 09:54 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
藤原北家贋縁起物語 Vol.029



ワニ皮の男と金魚のポピンズ「ザムザの朝」第二話 Vol.012

ワニ皮の男は今朝からあまり食欲がなかった。酔っぱらって川へ落ちた青年を助けるために、泳いで、泳いで、泳ぎ疲れて眠っているあいだ、みょうな生き物に変容してしまったからであった。そのためかどうかはわからないが、男の守護天使であったミミヅクは切り裂かれ、離れてしまっていまは行方不明のままであった。せっかく助けだした青年も、その後の消息はわからなかった。

「夢が叶ったわ」
と金魚が言った。
「え!」
とワニ皮の男がこたえた。
「じつはね、わたしはもう何百年も水のなかにいたのよ。それがね、急に気がかわったの」
「なぜ?」
「誰にだってあるとおもうけど、理由なんかぜんぜんないの。大人になったからだとおもうわ」
「金魚に大人と子供の境なんてあるのかな?」
「金魚じゃなかったのよ」
「ええ!」
「だけど人間でもない。シースプライトだったの」
「シースプライト?」
「水を支配している生き物でね、まあ、人魚のような妖精かしら」

「………」

「ね、お食事しない」

「………」

「それがね、ある日背中を丸めて水面ちかくへ浮かんでいたら、あなたが紙のスプーンでわたしを掬った」

「………」

「だけど水から外へでた途端、ペット用の愛玩金魚になっちゃった。ちっとも愛されはしなかったけれど」
と言って、金魚はプッと泡を吹いて笑った。(日刊、時々休刊「 妖精新聞・第二話 」好評連載中/つづく)






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