CALENDAR
S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< October 2017 >>
ARCHIVES
CATEGORIES
MOBILE
qrcode
浅い情事


女は女のことを知っている。
 
僕はこの女を疑っていたのかも知れない。女のからだは冷たくなんかなくって、死のような接触もなかった。ただ、僕が勝手にそう望んでいただけのことで、滑らかにのけぞったり、弾力性のある無理な格好をしたとき、その姿をぞんぶんに楽しめばよかったのに、エジプト人である神殿派神官の蒼黝くてぬらりとした逞しい男が僕の下で弓なりになっているこの女を横取りして、可愛い子羊のような生け贄を獰猛な腹や腰で押し潰し、傷をつけてしまうのじゃないだろうか、とか。女はそれを待ち望んでいるのではないだろうか、とか。自分にはピラミッドのような巨大な化け物にはなれそうもなくて、女にほんとうの歓びを与えらないつまらない男なんだ、とか。どうでもいいようなことをあれこれと考えていたんだ。ところが女は僕のことを心から愛してくれていて、疑いもなく満たされて泣いたんだ………僕の前であんなにも素敵な格好をしてくれたのに、淫らにしなった「トーネット椅子の曲木」だなんて、心のどこかでこの女とエジプト男との情交をさげすんでいたんだ。ほんとうのことを言ってしまえば、つまりは嫉妬をしていたんだ。なんてつまらない男なのだろうか。この女に命を狙われているというだけで捻くれていたんだ。もともと僕は、砂と埃しかない聖地エルサレムで通信騎士のコマンダーとして戦っていただけだから、はじめっからこの命以外はどうってことなかったのに。しかし、この女は大変だったろう。なにもかもが揃った贅沢な暮らしのなかで、エジプト人のおもちゃにされて生きていたのだから。
 
そうだな、おれはいつだって自分のことしか考えていなくって、ために女のことを親身になって考えてあげなかった。だからいつだって、おれとこの女との愛は気のぬけたシャンパンのような浅いマヌケた情事しかできやしなかったのだ。(女は女のことを知っているのだ)

「そんなことないわよ、すごく感じちゃった! とてもよかった」とささやいて、あの美しい氷河色の眸をうっとりとこちらへ見せながら、メムリンクは微笑んだ。


*ルーマニア国物語『トランスシルヴァナイト』(きみの乳ぼくの血)のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる方は、フロント・ページ左にある “CATEGORIES” の列の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。



| 東欧奇譚/未完 | 00:34 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
美しき青きドナウ
僕は僕のことを知っている。確かにこの女は僕のことを置いてけ堀にして、誰かさんとのうっとりした情交に酔いしれながら、かすかな寝息のまま、腹や手足をひくひくとひきつらせ、歓喜な夢の涯にいまだ溺れて眠っているが、はたしてそれは事実だろうか。
 
暗闇へ溢れでた匂いはこの女から発散されたものだけではない。さきほどから窓辺で燃えている蝋燭は蜜蝋で、枕元で燃えてるサンダルウッドのキャンドルは甘やかだ。それらがじりじりとして淫乱な匂いを誘うのであった。蜜と涎と体液と、邪念の匂いを嗅ぎながら、古いオルゴールの蓋をさっき開いて鳴らそうとしたのだったが、振動板に爪がひっかかってでもいるせいか、いつまでたっても鳴らなかった。刹那、ひとつの窓が突然に開いて、蝋燭の炎が吹き消えてしまった。びっくりした弾みに、オルゴールは鳴った。シリンダーが回転しだし、同音反復の澄んださざ波のトレモロからのびやかな主旋律とともにテンポの良い円舞曲がカタカタと軽やかに流れはじめた。(僕は僕のことを知っているのだ)
 
そう、こんなふうに白い肌を見せながら、雪のように白いシーツに横たわっている女を見ていると、僕は僕のことを想出す………

窓が開いて冷たい風とともに粉雪が舞い込んできたのと、金属音の響く音に目覚めたのだろうか。氷河色した眸を曇らせてメムリンクがひとつ伸びをした。
「寒いわ」と甘えながら、
「あら!」と言って、
「これ、『美しき青きドナウ』よね」と、言った。
「ああ、そうだよ。ドナウだ! 昔なんだが、母に連れられて、と言っても養母のバートリ・ゾエヘレナなんだけど、つまりはエリザベートバート伯母様の妹君、その人に連れられて………」
ここまで話しておいてから、さっき風で消えた枕元のサンダルウッドリに火をふたたび灯し、窓を閉めて暖炉の薪を燃やそうとしたが、随分てこずって時間がかかってしまった。寝台へ戻ってみると、膝を抱えるようにしながらメムリンクはまた眠っていた。
 
蝶の形のハンドルをいっぱいに捻っておいてから蓋を開けた。こんどはスムーズに鳴りだしたが、雪の降っているこんな寒い日に、ドナウの旋律を聴きながら、暗い場所で白い裸体を眺めていると、あの日の〈れ、れ、れの、れ〉の遠景を想出す。
 
-------------母は仰向けにころがって、恥ずかしいところを羞じることもなくさらけだし、雪の原で悪い音楽でも聴くかのような恰好をしながら、幾人もの男たちによって温められていた。やがて男たちは笑いながら立ち去って行ったが、母を中心とした場所だけが黒いドーナツ状に雪が溶けていた。それが血であったのか、洋服であったのか、土であったかは見当もつかないでいた。それも束の間ことであって、母の白いからだに白い雪はやがて降り積もって、雪は肌と溶けあい、なにもなかったかのように母は消えていった。
 
男は父であったのかも知れないし、狼であったかも知れないが、暗い夜の部屋の寝台を包み込む白いシーツの上で仰向けになった白い肌をした女の裸体に巡りあうと、僕はこうしていつでも固くなって、相手の女を退屈にさせてしまうのであった。
 
養母に買ってもらったこのオルゴールはいま美しき青きドナウのさざ波を刻んでいる。オルゴールには秘密があって、ハンガリーの礼拝堂へ養父ベレターノ・コルヴェヌスと養母バートリ・ゾエヘレナに連れられて、久しぶりに“親子三人”がめづらしく揃って礼拝した日、その帰り道にブダの町角で買ってもらった一品だった。

その日は三歳の誕生日で、マーチャーシュ教会宮廷礼拝付少年聖歌隊がミサ曲を歌い終ってから、なにかの拍子に「ドナウの唄」を美しい声で歌った。その時、それまでは一言も口を利かなかった僕が、その曲を聴いた途端に“ママ”と口を利いたらしく、養父や養母たちは喜んで、ドナウの曲が入ったオルゴールを買い与えてくれたのだった。宮廷礼拝付少年聖歌隊の歌声を聞いたとき、モンゴロイド系タタール人であった母が仰向けになってころがっていた場所は、牝の狼に僕が運良く助けられたがために、あれはトランシルヴァニア・アルプスの裾野あたりの山の辺の道だと思っていたが、ブカレスト近くか、あるいはカララシあたりのドナウ河口沿いにあった湿地帯か堤防であったと、無残にも、天使のように美しい声をした少年たちに導かれながら、無意識のままに知らされてしまっていた。
 
これが僕の知覚するぼくの血の記憶なのだ!


*ルーマニア国物語『トランスシルヴァナイト』(きみの乳ぼくの血)のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる方は、フロント・ページ左にある “CATEGORIES” の列の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 00:13 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
遠い日のHなエジプト


オルゴールを抱えたまま枕元の近くへそっと座ってから、寝台の傍に置いてあるリネンチェストの上へオルゴールを乗せた。そのとき、つっかかっていたシリンダーが回転でもしたか、爪で振動板が撥ねて、咳でもしたかのようにビィ〜ンと一音だけ低い音を残した。
「抱いて」と、振動板の震えに合わせるかのように、落ちついた声でメムリンクが誘った。じらせるつもりはなかったが、オルゴールを置いたときにサンダルウッドを含んだ精油蝋燭があったのでそれに火を灯した。
僕は洋服を着たままで、水鳥の羽毛でぷっくらと膨らんだ羽根布団をさらに剥ぎ取って、足元からすべり込んだ。が、上半身の衣類はすぐ脱がされてしまった。
「寒くないかい?」と、訊ねると、
「いいえ」と言った。
細いなだらかな腰へ手をのばし、さらにその指をすすめ、腿の間へ入れていつくしみ、閉ざされていた両脚をわずかにひろげた。その手を太腿から薔薇色の世界へせり上げて、何もせず、柔らかな下腹部の巻毛に触れて、腹を一、二度しごいた。しばらくして親指の腹を臍のあたりから鳩尾へかけて滑らせながら、華奢な脇腹を残りの指先で同時に撫でながら、ときに背中へと回した。いくぶん荒くなった息づかいとともに吐き出すメムリンクの咽喉の奥から、懐かしい海の匂いがする。顔を近づけ、柔らかい唇がたがいに触れ合って、舌がもつれ合う………と同時に、乳房を乱暴に盗んでいっそう激しく弄んだ。咽喉が膨れあがって、
「ああ! いい、わッ」と言った。
メムリンクは白い布に包まれていて、まるで花嫁みたいに奇麗だった。
「奇麗!」と、僕は声をかけた。
眼をふせたまま首を振って、メムリンクは僕の両脇下から素早く手をさし入れたかと思うと、その腕をくの字に曲げながら首の付け根あたりにある僧帽筋を力いっぱい握りしめて、泣きだした。

ふせていた眼を開け、首を振りながら頬を濡らし、僕の胸を濡らしながら泣いている。
「抱いて。ねェ、抱いて」と言った。
僕の欲情は痛いほどかき立てられて、この蒼白い肌を薄桃の肌に変えて食べてやろうと思った刹那、メムリンクの肉体は冷たくて、それは死との接触に近いほどであった。が、メムリンクの欲望は不思議なほどに燃えていた。

彼女はいまだ涙を流しながら、自身の股を大きくひろげて、まだ洋服のままであった僕の下半身を包み込んだ。しかし、僕のことには関係なくその肢体は少しずつ激しさを増してゆき、呻き声さえ出してせり上がった。あまり目立たなかった後頭部がだんだん伸びて長くなっていく。この時ふいに、メムリンク自身の口から何度となく告白をされた王妃ネフェルティティのことや、「トーネット椅子の曲木」のことを想出してしまった。おそらくは今、彼女は神殿派神官の末裔であるポティファルという男に犯されているのだろう。わけも解らずにただそう思い込んでしまうと、この城の地下室で見たあの光景をはっきりと想出さずにはおれなかった。

メムリンクはなおも淫らな格好となって、水鳥が濡れた翼を細かく震わせてでもいるかのように身震いをしながら、なんどとなく喘いでいる。

見ているのがだんだん辛くなり、僕は起きあがってリネンチェストの上に置いてあったオルゴールを手に取り、寝台のふちへ座ったまま蝶の形のハンドルを捻り、ゼンマイをきつく絞っておいてからそれを解放してあげた。


*ルーマニア国物語『トランスシルヴァナイト』(きみの乳ぼくの血)のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる方は、フロント・ページ左にある “CATEGORIES” の列の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 00:12 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
羽根の巣のなかの猫


ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎に照しだされたオレンジ色の結晶体を、指でなぞっていたメムリンクが突然、頓狂な声をだした。
「だめよ、レースが溶けちゃう。お願いだから、蝋燭の明りは一つにして頂戴!」
「ああ、そうだね」と返事をして、一つだけを残した。
結晶体をしばらく静かに眺めていたが、メムリンクはふり返って、硝子に触れて冷たくなった自分の指を僕の手に重ねた。
「寒いわ」
「やっぱり明りは灯そうか? それとも、暖炉に火を入れようか?」
「いいの」
「どうして」
「だってレースがみんな死んじゃうから」
「レースなんか死んじゃたってかまうもんか」
「あら、どうして」
「そりゃ、君のことのほうが大切だからさ」
「ほら、そういう言い方、わたしは嫌いだな。あんなに美しいアラベスクなのに」
「なんだっていいさ、君のことが大切だから」
からめていた指の手をゆっくりほどいて、メムリンクは僕の首を両手で弄んでから、僕の口に唇を押しつけた。

メムリンクをひきつけて強く抱きしめ、しばらくはそのままにしていたが、二人はやがて激しく抱きあい。糸がひくような接吻をくり返した。しかし、メムリンクはやがて、僕の腕をやさしく解いてすり抜けて、少しはなれたところに置いてあったソファへ腰をおろした。その距離が微妙だったので、キャビネットの上に置いてあったフランス産の古びたコニャックの蓋をねじり取って、こんもりと丸みをおびたグラスへ琥珀色した馥郁の酒を注いだ。そして一つをメムリンクに手渡して、僕はキャビネットへ戻り、立ったままでひと口大きく含んだ。このとき、オルゴールがどこかに置いてあったことを想出した。そして、その音を鳴らしてみたいと思った。

メムリンクがソファから立上がったような気がしたが、暗くてよく解らない。オルゴールをあちらこちら捜しているうちに、それが聖書の置いてある棚にあったことを想出した。さっそく手さぐりで見つけ、メムリンクのいるソファへ向かって歩いたが、ソファは空っぽだった。「フフッ」と、咽喉からもれでる女の声が暗闇にした。声のする方角へ向かって進んでみると、寝台の羽根布団にくるまって、羽根の巣のなかの猫のように爛々と眼を輝かせるメムリンクが、身をひそめ、一糸もまとわぬ裸身で蒼白く横たわっていた。


*ルーマニア国物語『トランスシルヴァナイト』(きみの乳ぼくの血)』のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる方は、フロント・ページ左にある “CATEGORIES” の列の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 00:25 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
光あれ!


階段を上った二階には僕の部屋があった。
鉄のハンドルを回して扉を開き、メムリンクとともに部屋へ入つたが、いままで誰もいなかったせいか、ひんやりと澱んだ冷気に包まれて二人はゾクッと身震いした。メムリンクが身体を寄せてきたと同時に、手に持った蝋燭を僕は高くかかげながら威勢よく叫んだ。
「光あれ!」
「バカね」と、メムリンクが大声で笑った。
屈託のないその笑顔に満足して、僕も大声で笑った。そしてもう一度、
「光あれ!」と叫んだ。
「クックッ、ほんとうにおバカさん、ここは二十一世紀じゃないのよ。壁にスイッチのオンとオフのボタンを捜したってありっこないわ。フフッ、まったくおかしな人」
「灯かないな?」
「灯かないわよ」
「そうかな〜。そうだよね、灯くわけないよね」
と僕はとぼけ、雪明りでぼんやりと光った窓にむかって歩き、窓の窓辺に並べておいた大小さまざまな蝋燭へつぎつぎと明りを灯した。
「わあ! とても奇麗。見て、窓の硝子がレースの刺繍のようだわ」と、メムリンクは珍しく興奮して喋った。
見ると、今朝そのままにしておいた窓硝子の露がさまざまな形に凍てついていて、シギショアラの町角で見た東欧刺繍の紋様のように美しく光リ輝いていた。

*ルーマニア国物語『トランスシルヴァナイト』(きみの乳ぼくの血)のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる方は、フロント・ページ左にある “CATEGORIES” の列の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
素顔と裸足とバルバラと


話しに夢中になったがため、すでに消えかかっている暖炉の炎に灰をかぶせ、その炎で点けておいた蝋燭を手に持って『オークの間』をでた。薄暗がりの廊下、メムリンクと伯母の部屋の前を通り過ぎ、さっき皆で夕食をともにした円錐形の東の塔、つまり主塔をめざして歩いた。足元を鼠のようなもが横切った。が、しばらく歩き、主塔の手前の階段をのぼった。二階へつづく階段の途中に広い踊場があって、壁には二〇〇号ぐらいの絵が一枚掛けてあった。しかし、ちょろちょろとした蝋燭の炎だけでは全体すべてを見渡すことはできなかった。しかし、その絵のことは目をつぶっていてもだいたい思いだせたが、光と影によるかたちは見えても、絵にどのような意味があるのかは解らなかった。どこかで見たような、見てはいないような、ぼんやりした白い絵で、書物に目を落した美しい少女が描かれていた。少女のうしろには塔があって、窓が三つある。塔はいまだ工事中であり、塔の上には石を積み上げている人々がいて、塔の下には石を刻んでいる石工や、石を運んだり、泥をこねる人々が描かれていた。唯一、空の色だけが青かった。

僕はメムリンクと肩をならべて、この絵をこうして二人だけで見たかっただけなのだ。しかし、そう思ったころにはメムリンクはもう夢遊病者のようになっていて、途方にくれて倦み疲れていた。しかし、絵の前へ佇んでしばらくぼんやりしているうちに、メムリンクの表情は少しづつ変化をして、気力のような、希望のようなものが眸の奥に彩りはじめ、生きる力をゆっくりと取り戻してゆくかのようであった。
「聖女。バァ、ルゥ〜、バァ〜、ラァ〜ッ」
「えッ!」
「バ・ル・バ・ラァ〜ッ」と、くぐもった声でメムリンクが呟いた。
「バルバラ!?」
「え、え〜、聖女バルバラ。十二月四日が聖女バルバラの、祝祭日」
「ああ、知っている。バルバラのことだったら知っているさ」
「彼女はね、あの塔へ、父親に幽閉され。そして、最後にはその父親に首を、斬られて殺されたの」
「ああ、それも知っている。ただ、僕はこの絵を見るのがはじめなんだ。紅い衣を着た聖女バルバラが、ひとりぼっちで十字架を持って立っているイコン画しか知らないから」
「そうよね、東方正教会のあるこの地方じゃ、貴方が知っている、イコン画ばかりだわ。私はね、フランスのロール川下流にあるプロバンスでこの絵を見たの。そのときに知ったのだけれど。バルバラは実の父に首を斬られて、殺されたのよ‥‥‥。結局、私は、またもこの聖女バルバラの絵の前で、その方に抱擁をされ、私は私であらねばならないということを感知する。プロバンスでこの絵をはじめて見たとき、私は若くて、バルバラが感じていただろう憎しみだけを考え、私はヌヌという仮面を被ったの。ところがそれは間違っていた。貴方と肩を並べながら二人ぼっちで聖女バルバラを眺めていると、求めるものはもっと他にあった。と、バルバラのみ胸へふたたび辿りついてわかった気がする。バルバラに憎しみはなかった、と。そして、もっとも大切なことは、貴方と私の出合いはけっして偶然じゃなかったということを」
「偶然のように見えていて、すこしも偶然じゃない必然の出合い。きっとバルバラと父親の関係も必然であったのだろう。本来であれば、満ち足りた父親と娘との関係であったろうに、苛酷な運命を強い意志でうけとめざるをえなかった、どこにも居場所がなかったバルバラ‥‥‥」
「どこにも、居場所の、なかった、バルバラ。どこにも、居場所の、なかった、人、が、摘んで活けておいた野の花つぼみ。異教徒であった父親に、殺された日、可憐な花を咲かせたと聞く。その日が十二月の四日。どこにも居場所のなかった、私は、憎しみのギーに導かれ、この絵の前へと辿り着く。バルバラの日の祝祭に、伯母様が活けておいてくれたのだろうか? 床の上の、小さな花瓶へ挿した桜桃、の、花がこんなにも咲いている」
「身も心も傷つけられて、なお清らかな少女バルバラ。僕もメムリンクに導かれ、この絵の意味へと辿り着く」
「私も、苦難のバルバラが秘蹟をうけて聖女となられたように、しっかりと貴方を選んで、ヌヌという欺瞞の仮面を剥ぎ取って、桜桃の花のような安らかな素顔に早くなりたいわ」
「メムリンク! おれもお前のために、自尊心で汚れてしまった古い鉄の鋲が無数に打ちつけてあるこの靴を脱ぎ捨てて、早く裸足になりたいな」
「素顔と‥‥‥」
「裸足と‥‥‥」
「バルバラと‥‥‥」
おもわず「フフフフッ」と、ぼくたちは手を取りあって眸を見つめ、「ジングルのベルのクリスマス、おめでとう」と、あらゆることがらを忘れて笑った。
聖女バルバラの肖像画の前で、僕は化けの皮を剥がされた狼のように、古い靴と靴下を脱いでみた。
「おとぎばなしみたい」と、メムリンクは顔をくしゃくしゃにしながら元気よく笑った。

氷のように冷たくなった大理石の上を裸足で歩きながら、その冷たさに僕はマリオネットのようにぎくしゃくと跳ねてみる。するとメムリンクが、またくしゃくしゃ顔になって笑った。このときの顔はもう以前のような動脈硬化を起しそうになったときのくしゃくしゃ顔ではなかった。
乙女のように清らな表情をしたメムリンクの額へ軽いキスをして、ぼくたちは聖女バルバラの肖像画へむかい、まるで旧教徒風に二本指で十字を切って祈ってから、小さな花瓶に活けてあった桜桃を一枝もらい、踊場の階段をゆっくりとした歩調で駆け登った。(つづく)


『トランスシルヴァナイト』のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる酔狂な方は、ブログのフロント・ページ左側の最下
位にありる “CATEGORIES” の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から
順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。



| 東欧奇譚/未完 | 00:09 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ジングルのベルのクリスマスの女


エリザベート伯母様の二百五〇回目のお誕生日会は、無事に終った。
お客様がみんな帰ってしまった後、しんと静まりかえった城ではクリスマスの準備が召使らによってなされていた。ぼくたちもクリスマスの手伝いをして楽しもうとしたが、メムリンクは伯母様のお誕生日会のときも、そしていまでも、蝋のような、あるいは、魂のぬけかかったビスクドールのような白い表情をして、なかば眠るように。なかば唇を無防備に開放したまま、そこにいた。

フォガラシ城へはじめてやってきた日のつぎの朝、編目硝子の窓から外を眺めていたことのあった窓辺へメムリンクを誘った。窓辺は出窓になっていて、外へ張りだした部分がベンチになっている。ベルベットでつくった緑色や紅色のクッションが置いてあったので、メムリンクをそのひとつへ座らせ、ぼくたちは並んで座った。
今日も雪が降っている。

メムリンクに元気がないのは、のぞき込んだ僕の心が、かの人の心に反映しているからだろうか・・・。正直、僕も疲れていた。メムリンクに殺されるかもしれないというケチな了見ではなく、その反対からである。メムリンクは僕のことを殺したいほど憎んでいる。それでいて、いまだ憎みきれないのだ。それにひきかえて、おれはほんとうにメムリンクのことを愛しているのだろうか。メムリンクがおれを殺したいのも、それでいて殺せないのも、メムリンクがおれを愛してくれているからであろう。そんなお前にひきかえて・・・おれはどうなんだ。聖家族ドラゴンジュビナイル救貧修道病院でお前をはじめてみつけたとき、おれはお前に同属の匂いを嗅ぎとった。立ち位置がどこかしら似通っていたのだ。だからお前に近づいた。おれはおれ自身の慰めとして、お前を修道病院の裏庭へと連れ込んで、ハアハアと、ハアハアと鬼ごっこをくり返した。おれの魂はたえず膨張しつづけていて、果てのない虚無の中を永遠に彷徨いつづけていたんだ。だから、おれはおれ自身のことしかなにも考えていなかった。

ふりかえってもみれば、お前はいつでもおれの傍にいてくれて、わがままなおれの夢を無邪気にかたちづくってくれていた。ましてや、命を助けられ、こうしてお前をいま目の前で見つめれば、おれのゆがんだ心がやっぱりお前に映り込んでいて、それがヌヌという女の仮面のくぐもり声となり、不毛な愛の断片におしつぶされそうになっている。お前の気持ちをなにも知らないで、この城の『オークの間』へ昔のようにまたも連れ込んで、有無を言わせずお前をいたぶってしまった。

雪のように白くて冷たいミルフィーユの層のように重なった涯のない世界の空洞のなかで、なんどでもなんどでも生き返って産まれてこられたのは、お前のような優しい有機生命体が、わがままなおれの傍にたえず付いていてくれたからなのだ。

「メムリンク!」と叫んび、ミルフィーユのはざまのような宇宙に浮いた等身大の鏡に映ったと思えば膨らんで、やがて貫通してゆく有機生命体のゆらめきのような宇宙線的存在の一瞬を、おれは強く抱きしめてみた。有機生命体はもの言わぬ表情でぼんやりとこちらを眺めたまま、なかば眠るように。なかば唇を無防備に開放したままそこにいる。おれは表へと飛びだして、一塊に握った硬い雪の玉を持って帰って、ビスクドールのようにじっと座ったままでいるメムリンクに手渡してあげた。幽かではあったが、雪の冷たさに驚いたか、メムリンクは白い頬を染めて笑った。それからゆっくりと、女は「ジングルのベルのクリスマス、おめでとう」と呟いた。

無防備だった女の唇から吐きだされた響きが、隠しておきたいほど恥ずかしいおれ自身の弱さを突きぬけて、これまでにはない原始の気持ちにさせてくれた。そこでぼくも、「ジングルのベルのクリスマス、おめでとう」とささやいた。

それから二人はいつまでもじっとしながら、紅と緑のクッションに座ったままでいたが、メムリンクの手のなかの雪がすっかり溶けてしまったのを機に、ぼくたちは立ち上がった。気掛りな絵が階段の踊場に掛てあったのを思いだしたからである。
溶けた雪で前スカートの腰のあたりは恥ずかしいほど濡れていたが、メムリンクは気にする様子もなく、なんだか嬉しそうに、ぼくの腕を取って歩きはじめた。(つづく)


『トランスシルヴァナイト』のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる酔狂な方は、ブログのフロント・ページ左側の最下
位にありる “CATEGORIES” の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から
順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。



| 東欧奇譚/未完 | 00:05 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
眠りと仮死と誕生日


しんしんと、雪はたえず降っている。
今年の雪は、ずいぶん遅く降りだした。と、馭者のカヌートが言っていた。僕たちがこの城へやっていた日、カルパチア山脈とトランシルヴァニア・アルプスの継ぎ目あたりの山々が、低く四輪馬車の窓から見えだしたころ、ちらちらと降りはじめたのだった。それがいつのまにか、あたり一面に幕でもひいたように、木々の緑もいつしか真っ白に覆われてしまった。

カヌートはこの数日間、働きづめに働いていた。エリザベート伯母様のお誕生日会が催されたからである。

伯母様のお誕生日会は十二月十七日であったが、遠くはハンガリアから、そしてモルダヴィアからお祝いにやってくる客もあった。そうした客はわずかであったが、どのかたもみな伯母様の大切なお友達、粗相があってはならないので、外のことはすべてカヌートが責任をもって指揮していた。
 
それら以外の客は近隣に住んでいる地主貴族らがほとんどで、遊山顔でやってきてはその日のうちに帰っていったが、遠くからやってきた客にまぎれて、何日も泊まっていくものもあった。客のめんどうは内にいる使用人の手でほとんどまかなえたが、こういった場合、歳老いた執事が手をめぐらすので、下働きする人間はすぐに集まった。しかし、冬の季節、外の仕事はきつかった。どの馬車も、車輪は橇仕様に装着仕直してあったが、車輪のままでやってきた横着なのもいて、これらの馬車を橇仕様に交換して上げたり、馬の世話や馬具の手入れ、薪を割ったり運んだりと、言うに言われぬ労働が山のようにあった。だが、これとて、カヌートは数人のツガニーを巧みに操つりながら、なんなくこなしていたが、四日目の朝ともなると、さすがに疲労している様子であった。
預った馬の世話や、外の労働はやってみなければわからなかった。
 
城の中では、大きなテーブルの上に鰯と玉葱のオイル漬けや肉料理、ソーセージ、ファグラ、ママリガ、野菜、果物、ス−プ、フルーツやクルミ入りのパン、チーズ、ワイン、珈琲、ジュース、ウイスキー、お菓子・・・と、ありとあらゆるものがところ狭しと並んでいた。だが、宴もそろそろ終わりに近づいていた。
 
僕もメムリンクも肉体的にはさほど疲れていなかったが、二人の心は苦しみにあえいでいた。ところが、エリザベート伯母様は黒い大きなリボンをゆらゆらと揺らして、夢遊病者のように歩いたり座ったりしながら、ときに〈アンダンティーノ〉と〈ラルゴ〉のあいだを行ったり来たりしながらチェンバロを弾きつづけていた。

「バートリ・エリザベート様、二百五〇歳のお誕生日おめでとうございます」

思いだしたように、だれかが大声で挨拶をした。
すると伯母様はチェンバロをジャランと力強くかき鳴らし、〈ヴィヴアーチェ〉で挨拶をした。
どこからともなく、「わ〜ッ!」と拍手が起こった。

「バートリ・エリザベート様、二百五〇歳のお誕生日おめでとうございます。いつまでもお元気でいて頂戴!」

また大声で、だれかが挨拶をした。(つづく)


『トランスシルヴァナイト』のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる酔狂な方は、ブログのフロント・ページ左側の最下
位にありる “CATEGORIES” の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から
順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 00:41 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
べねぢいと(祝された)


-----と言って、メムリンクはギーにしなだれかかった。《それが本心なのか、女の捨て身からなのか、ギーにははかりかねた》

僕には君とおなじ病気があってね。って言うか、ちょっと違うのだけれど、つまり、気狂いがあってね。いつだって強く生きよう、丸く生きようと誓って生きているのだが、満月が近づいてくると、その直前で身体の中身がひっくり返ってしまうんだ。もっとも、いきなりそんなことになって、うすももいろや氷河色した内蔵が外へとびだして露出するわけじゃないんだけれど、自身の中ではひっくり返っちゃう。すると、奥にあったはずの物静かなものが表へと暴れだしちゃってね、そこに無数の針や糸、ハサミや鉗子らがぶらぶらとぶら下っている。まるでね、それは壊れちまった時計みたいにチクチク・カチカチとうるさくってしかたないんだ。

痛そうだわよね。でも、さっきからなにをぶつくさ言っているの。
「はやく抱いてよ!」と、メムリンクは涙を流したまま、忌まわしい顔つきでまたも叫んだ。
クレヴァスの裂目ができてしまったメムリンクをぎこちなく抱きしめたからであろうか、彼女は僕の胸を強く押しのけると、地面にぺしゃりと座り込んでざあざあと泣いた。涙は厚く塗られた化粧をいよいよ溶かして、いままでが異様に整いすぎていたヌヌの風貌を、この世のものならぬほどあけっぴろげに広げ放った。

「涙を流すと、なにもかもがなくなってしまうから恐いの」と言っていたメムリンクの言葉が、いまになってようやく理解できた。しかし、男の僕には手のほどこしようがなかった。だからこのままでもいいのだと思った。しめに締めつけておいたゼンマイの輪が、その弾性をすこしづつ喪失するにしたがい、やがて静まりかえってしまう道理に似て、ことのなりゆきをただぼんやりと眺めているしかなかった。

 目はうつろになって。
 こめかみは凹んで。
 耳は冷たくちぢみ、耳朶がはらはらと痙攣していて。
 厚化粧の下からのぞいた皮膚は硬くつっぱって乾燥し、黄ばんでどす黒く。
 唇に締まりがなく、だらりと垂れさがったまま冷たく、ひどく白くて。
 苦しそうであった。


神に救いをもとめることさえ放棄して、か細い肉体をつつむ脆いミルフィーユのような層の空間を、プランクトンのように彷徨いつづけながら生きてきた女。裏返せば、プランクトンのように生きつづけてきた男。その男とこの女が引きあった恋慕とも愛憎ともつかない息づかいの疲労しあう場所で、じっと見つめあうことの後めたさ。

僕はとっさに膝まづいて、抱こうとすると手足をばたつかせて嫌がる女を強く抱いた。すると、とめどなく流れる女の涙や涎でまざりあった血とも膿ともつかない液体が、僕の咽喉から首すじを伝い、胸から鳩尾、腹から腰へと流れ落ちた。ずるずるした生温かいものは、ついに金剛杵のように硬くなったペニスへと至り、まるで水蛇が螺線をえがいて絡んでくるように絡んで離れなかった。そんな女が流した涙の、涎の、血の、膿の言葉をペニスに受けとめて、こわれてゆく女とともに泣いた。女もまた、裏返ってしまった僕の皮下組織にぶら下がる針や糸を強く引っぱっては泣いた。

二人は濡れた体をひとつにからめとって、オーク材でできた床へくずれ落ちたまま、なめくじのような姿になっていつまでも愛撫する。

失くしたものを回復するという〈オークの間〉の伝説を嘲笑ったメムリンクの表情が、さっきよりは和らいでいった。

          ∴

どれくらいの時間がたったろうか? 白い粉雪は割れた高窓のあいだからちらちらと舞込んで、部屋の途中で消えていったが、夜も更け、暖炉の火が消えかかっているせいもあってだろか、書籍がならんだ部屋にうっすらと粉雪が積もりはじめていた。だが、それでも二人は抱きあったまま、塩を振掛けられたなめくじが溶けて縮んでゆくように、身動きひとつすることもなく、失くしてしまった自分を見いだしてくれるという〈オークの間〉で、いつまでも死んだようにじっとしていた。

真夜中だというのに、遠く・・・近く・・・手慣れたチェンバロの音が静かに流れ響いてくる。きっとエリザベート伯母様だろう。気づかいされたその音色は、まるでトランスシルヴァナイト鉱石の薄い針状テルルが幽かな金属音を残しながら「べ・ね・ぢ・い・と」と、無慈悲な時間によって剥がれほぐし落とされてゆくときのような音。

あるいは、冴え冴えとした煌めきにも近く、人の心の奥深き優しさがあるところからあふれでた音・・・曲はどうやら、『美しきクリスマス』のようであった。(つづく)


『トランスシルヴァナイト』のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる酔狂な方は、ブログのフロント・ページ左側の最下
位にありる “CATEGORIES” の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から
順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 00:32 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
死にあこがれて


船はアドリア海をカミソリの刃のように帆走していてね
デュラッツォ スパラトを寄港した後
レムはツァラで下船するつもりでいたらしいのだけれど
当時ハンガリア王国の港町だったリエカで降りて
ザグレブの町からサヴァ川を小舟で下り
〈白い要塞〉を意味するベルグラードへ出て
ドナウを下ってしまえば
あの懐かしいブカレストまでじきだった
だが 私はずっと考えていた
叔父様が住んでいらっしゃると聞くブラン城へではなく
伯母様の住んでいらっしゃるフォガラシ城へ戻りたいと心に決めていたの
伯母様は人々から忌み嫌らわれて恐れられていたけれど
あなたもご存知のように それは嘘! よね
伯母様はすてきな“魔女”なだけよ
できるだけお傍にいてあげたいと思ったの
だって わたしはとてもお世話になったから
それにね・・・
赤とエンジと血とバラ色のアヘンが匂うこの肌を
なんとか消滅をしておきたかったの
そこでね 伯母様とご一緒に暮らしてみたいとレムの王に嘆願したの
願いはかなって
三年だったかしら? 三十年だったかしら? それとも六百年だったか?
ともかくも 何年だか忘れちゃったけれど暮らしたの
それでね そこで伯母様に私という女の顔を
まるで衣類を脱ぎ捨てるかのように捨てていただいたの
人魚姫がその尻尾を捨てたように
代償!? そんなものありゃしないわ
二度と人魚には戻れないとか・・・
愛する人と魂をわかちあえば幸福になれる・・・とか
可愛い舌を切り落される・・・とか
代償なんて そッ そんなものはありゃしない
絶対にありはしなかった・・・
絶対に・・・ なのに今日はどうして涙が流れるの?
今日は涙がぽろぽろと
ほら ざあざあとこんなにも流れて
涙を流すと 
なにもかもがなくなっていくのが恐いの!
ねえ

わたしの背中 
わたしのお腹
わたしの黒髪
ああッ!
ああッ! あッ!
ギー! わたしをつよく抱きしめて!
神と呼ぶさえ呪わしき私の亡霊を(つづく)


『トランスシルヴァナイト』のあらすじは、こちらのトランクを開けて下さい。全文を読んで下さる酔狂な方は、ブログのフロント・ページ左側の最下
位にありる “CATEGORIES” の「トランスシルヴァナイト」を開き、下から
順次上に向かってお読み下さい。主な登場人物はこちら。


| 東欧奇譚/未完 | 01:04 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
| 1/12PAGES | >>